活動会員 日沖桜皮
Yahoo!の検索窓に「多頭飼育」と入力するや、予測変換の筆頭に「崩壊」の2文字が現れる。多頭飼育=崩壊であるかのごとき印象が、世間では一般的になってしまったのかもしれないと憂う。
もちろん、「=」のわけがない。いや、「=」にしてはいけないのである。
しかしながら、たしかに「崩壊」してしまった、あるいは崩壊間近の多頭飼育が決して少なくはないのが現実だ。それは、「多頭」になり「にっちもさっちもいかなくなる」状態への移行が、飼い主の想像を越えて「あっというま」であり、対策を講じる間もなく進行してしまうからである。「多頭」になる原因はもちろん、避妊対策をしないからであり、ちょっと油断して10頭ぐらいに増えてしまうと、経済的な問題で避妊手術を施せなくなり、気がつけば数十頭になっていた、という例が多い。
人もねこも一緒に支援プロジェクト(以後、ねこプロ)がこれまで扱ってきた事例の中で、もっとも多いのが、多頭飼育になってしまった崩壊寸前ともいうべき家への支援、である。
さて、多頭飼育になるとどうなるのか。
ねこに関しては、①増え続ける、②飼育環境が悪化するため成長に支障を来たす、③死ぬ、が繰り返される。人に関しては、住空間の状態が極端に悪化する。ごみや汚物の散乱、空気の汚染、壁や床の腐朽、である。さらに、ねこの飼料や汚物処理のための経済的・時間的な圧迫が拍車をかける。こういった現象が限界を超えた状態が「崩壊」である。
本人、あるいは行政などからねこプロに支援要請がくるのは、「崩壊寸前」である場合が多い。まずは代表の小池栄梨子が訪問し、状況を確認する。その状況からできることを提案し、すぐさま実行に移す。避妊手術、住居の修繕、ごみ捨て、その後の見守り、などであるが、この1年で私は「重症」の部類に入る2案件の支援にかかわった。
半世紀ほど、ほぼねこと暮らしている大のねこ好きの私でさえ、支援に向かったお宅でねこに面会したときに、手放しで「かわいい~~」とは言えないような、悲惨な状況に直面し、最初は動揺した。しかしこれが「崩壊の一歩手前」であり、いま適切な対処をすることで「崩壊」を食い止めることができると聞き、息を止めて畳を切り裂き、バルサンを焚く前にまだねこが室内に残っていないか懸命の捜索をし、動物病院までの送迎に奔走し、ごみ処理センターまでの往復を繰り返した。
「増える」ことがなくなれば、ひとまず「崩壊」は阻止できる。あとは、飼い主さんの心のケアだ。先述のように、生育環境が決して良いとは言えないため、病に倒れてしまうねこが、どうしても多くなってしまう。「減るとまた子ねこちゃんがほしくなるのよね~」と屈託なく笑う飼い主さんに、内心あきれながらも、気持ちは理解できるので穏やかに説得する。
「崩壊寸前」から救うことは、テレビなどで見る崩壊の惨状から想像するほどたいへんなことではない、というのが私の感想だ。だから、「救える崩壊寸前」がたくさんあるなら、どんどん支援に入るべきと思う。
ねこプロはそのように、ねこを救うのはもちろんだが、基本、“人に寄り添って”、それぞれの状況に合わせてできることを実施していく。飼い主さんにしっかり働きかけていく支援からブレないように。
(ニュースレター57号/2019年7月)