理事 渡邉佳代
DV子どもプロジェクトでは、母親プログラムの中で、参加者同士でのアロマハンドマッサージを長く行ってきました。暴力のある生活からの影響により、相手にNoと言いづらかったり、相手に踏み入りすぎたりといった、人との距離の取り方に困難さを感じる方々も少なくなく、当初は肌を密接するマッサージを懸念する声もありました。
プログラムで大切にしてきたことは2つ。1つは親子に日常的に関わっておられる施設職員さんとの連携です。施設での派遣プログラムでは、職員さんにもグループに入っていただきます。事前に入念な打ち合わせを行い、職員さんにプログラムへのニーズ(「プログラムを通して参加者にどうなってほしいか」「どんな時間になったらいいか」など)を伺い、参加者の見立てや配慮する点、希望を伺い、必要であれば参加者同士のペアを決めます。スタッフ同士が信頼を寄せ、安心してプログラムに臨むことが「場を抱える器」になり、参加者の安心につながるように感じます。
2つ目は、参加者の自己コントロールを支えることです。施設からプログラムのご依頼をいただいた当初、母親プログラムの狙いは、母親が子どもと離れて自分の時間を過ごし、リラクセーションの方法を体験することでした。しかし、長くこのスタイルでやってきて実感したことは、参加者に参加のあり方を任せ、「自分の心と身体に相談して、安心できる“心地よさ”を探っていくこと」を支えると、参加者の安全・安心感が守られ、参加への満足度も高くなり、結果としてグループ運営もスムースにいくようになったと感じています。
入所中のお母さんたちは暴力のある生活から避難し、子どもたちを抱えながら、これからの生活に向けてまだまだしんどい渦中で踏ん張っています。そのため、スタッフはリラックスや力を抜くことだけを強調しすぎないよう注意しなければなりません。場合によっては、しんどい最中を生き抜くには、ある程度の力みや緊張が必要であることをグループでも共有します。
参加者には、自分の緊張や心地よさの程度を探ることを目標として丁寧に共有します。例えば、人との距離、マッサージの手の速さ、強さ、座る位置などです。グループが始まる前には部屋全体に目を向けてもらい、どこに入口があり、窓があり、誰が参加し、自分はどこに座っているかを確認します。参加者の緊張も安心も双方保障して大切に扱い、座る位置を調整してもらうのです。
マッサージの前には、セルフタッピングとペアで背中のタッピングのワークをしてから、マッサージをセルフでするか、ペアでするかを決めてもらいます。マッサージ中も、呼吸の速さやリズムなど、自分が安心できる心地よさを試行錯誤することを支え、励まします。やってみて違った!今日は気分じゃなかった!ということもあるので、途中退出もグループから離れて横で休んでいてもOKであることを保障します。
参加者からは「こんなに人の肌が温かいなんて」という声がしばしば上がります。それは、自分の心と身体の声に耳を傾け、自分の内側とつながることで、自分の内にある温かさにそっと触れた声でもあるように感じています。人生では自分でコントロールし選ぶことには、時として限りもあるでしょう。それでも、ささやかなことから自分の感覚を信頼し、選択していく試行錯誤が守られ、支えられる体験が、「大丈夫だよ」「そう感じてOKだよ」「間違ってないよ」というメッセージとして、親子が1つひとつ選択するこれからの安心と安全につながるよう願っています。
【2019年1月~5月の活動】
DV子どもプロジェクトには、12名の会員が登録し、2ヶ所のDVシェルターにて派遣プログラムを実施しています。この間、団体では2,4月の計2回実施し、子どもはのべ2名が参加しました。施設では3,5月の計2回実施し、子どもは20名、おとなは11名が参加しました。また、スタッフの力量の研鑽と、プログラムを行う外部機関に対しての信頼と専門性を担保するものとして、DV子どもプロジェクトでは定期的に研修を実施しています。1月には、施設心理士の林久美子さんから「DV被害母子の生活再建とケアについて-シェルター入所中~退所後の支援」、栗本美百合さんから「体験アートセラピー」を学ぶ研修を行いました。
(ニュースレター57号/2019年7月)