小池英梨子
人もねこも一緒に支援プロジェクト(以下ねこプロ)への相談で最も多いのが、「ペットの多頭飼育」です。ここ最近の相談で、飼い主さんから直接相談があったケースでは、保健所や社会福祉協議会など色んな機関に相談の電話をするも、どこも取り合ってくれず、藁をもつかむ思いで、ねこプロに電話をかけてこられました。多頭飼育崩壊ケースの飼い主さんが抱える問題として、問題をうまく伝えられないという問題は多くの飼い主さんが抱えていると感じます。あわせて、関係機関が飼い主さんの主訴の奥にある問題を聞き取ろうとしてくれないこと、があると感じます。
猫の多頭飼育の問題が起きる背景には、経済的な問題、心の問題、人間関係の問題など複数の人の問題が必ずあります。ですが、飼い主さん自身がどこに相談しても目下の不安「猫をたくさん飼っていて・・・」が最初にでてきてしまうため、どこの福祉機関でも「猫の相談はうちじゃないよ」と言われてしまいます。また、保健所に相談しても、「猫をたくさん飼っていて・・・」となると「不妊手術など繁殖制限をしてください」→「お金がなくて」→「経済的な問題は福祉関係のところに相談してください。」と言われてしまいます。勇気を振り絞って相談の電話をしても、たらい回しにされてしまうと飼い主さんの心も折れてしまいます。それによって多頭飼育がより深刻化し、崩壊状態に至り、近隣からの苦情や通報に至るまで放置されてしまう傾向があるように感じます。ニュースなど大事になってしまえば、各機関も他人事でいるわけにわいかないので、慌てて動き出しますが、その頃には猫の頭数も環境も最悪な状態になってしまっていることが予想されます。多頭飼育問題があまり深刻になりすぎていない状態で、相談をうけたところが、主訴の奥にある問題も聞き取ろうとしてくれれば、最悪な事態になる前に介入支援することができるはずだと思います。
相談を受けたケースで言えば、
Q.臭いの苦情はどんな時に言われたんですか?→A.先日母が脳梗塞で倒れ、アパートの前で大騒ぎしていた時に。母はまだ意識不明で入院している。
Q.不妊去勢手術は自費では難しいですか?→A.アルバイト生活で複数の会社への借金返済があり、家賃も5か月ほど滞納している。
Q.猫のことで頼れるご家族はいますか?→A.母と同居している弟は10年ほど引きこもり生活をしている。母が働けなくなったら弟も生活できなくなる。頼れる状況ではない。
などなど、しっかり飼い主さんのお話を聞けば、猫の多頭飼育問題だけでなく経済的な問題や、親の介護の問題、兄弟の問題など支援が必要な問題がたくさん明らかになります。そこで、ねこプロスタッフが飼い主さんに同行して地域包括支援センターにお母さんの事を切り口に相談に行きました。そこから、地域包括支援センターが社会福祉協議会にも連絡を取ってくださり、地域包括がお母さんのこと、社協が借金問題と妹さんのことにメインで関わってくれることになりました。ねこプロでは、支援対象の方に対し、単体での介入は基本的には行わず、多機関と連携して支援を実施することを大切にしています。特に、多頭飼育崩壊は、猫がたくさんいる状況が問題の本質なのではなく、その状況をつくりあげてしまった様々な要因が問題だからです。
【講演活動の報告】
プロジェクト発足から1年、最近では援助職者向けの研修会や一般市民向けのセミナー等に講師依頼をいただくことが増えてきました。生活保護のケースワーカーさんや、介護のヘルパーさんたちの研修会で事例検討会をすることがあります。例えば、【高齢者の方が、猫を多頭飼育していたが近隣から苦情がきたので、なんとか説得して保健所に引き渡した(殺処分した)が、飼い主さんも納得してくれていたはずなのに、その後ケアマネとの関係が悪化し、担当を変わることになった。】というケースについて、小グループに分かれて意見交換をすると、「保健所に飼い主さんも連れていけばよかったのではないか」「猫を手放した後の悲しい気持ちに寄り添えばよかったのでは」など沢山の意見がでるのですが、どの意見も「猫を手放す」という前提はしかたがない、変えられない、と共通認識が揺らがないことに驚きます。研修会の講師の所属が「人もねこも一緒に支援プロジェクト」なのに(笑)。そこで、猫も含めて家族として捉える支援デザインの実施例や、ねこプロの考え方のベースにしている家族システム論(猫アレンジVr)の理論の説明をします。また、「子猫の手術は何か月からできるのか」「交尾をみたら生まれるまでの猶予は?」などの実践的な話まで、実践で役立つ情報満載だと思います。講師依頼は、猫プロまで!
【最近の講演活動】
●2018年11月21日 ニャンだホーミーティング(主催:Life for Cats NARA)
●2018年10月6日 人のための地域猫セミナー講師(共催;NPO法人いたみ野良猫をふやさない会みゅうみゅう・伊丹市生活環境課)
●2018年9月29日 第4回九州・沖縄公的扶助関連問題セミナー 講師
●2018年9月21日 大阪市生涯学習まちづくり市民大学 講師
●2018年7月13日 更生保護女性会中京西支部/朱五学区が企画する運動ミニ集会 講師
●2018年7月21日 岸和田市市民向け公開講座 講師 「ノラ猫事情と対策」
●2018年7月18日 住吉区北地域包括支援センター勉強会「猫から目線で動く支援」講師
(ニュースレター56号/2019年1月)