イニシエーションは「成人儀礼」と訳されていて、人生における通過儀礼の一種のことである。それを経て、晴れて大人の仲間入りをする。そんな儀式のことだ。 ところがわが家では、儀式のようなことは何だか晴れがましく恥ずかしいので、万事ざっくばらんにすませてきた。その結果、気楽なのは良いのだが、何かにつけてメリハリがない。子ども達も知らないうちに大きくなって、あっと云う間に大人になってしまいそうだ。 この調子ではいつ成人したことになるのやら分からないまま済んでしまいそうな感じだった。巣立ちにしたところで、就職先の勤務地によって決まってしまうような気がしていた。 そんな時に思い出したのが、大学三年の春に友人が、父親と二人で旅行をしたことだった。同級生の私は当時、おかしな事をする家族だなぁと首を傾げていた。他の誰も親なんかと旅行しなかったからだ。 しかし今思うと、おそらくあの父親は、あの後再び子どもと二人で旅をすることなどなかっただろう。どんな巡り合わせだったのか知らないが、あれは親子に一度きり与えられたチャンスだったのだ。そういう「成人儀礼」もいいかもしれない、そう思った。
(ニュースレター13号/2005年11月)