台風の時に何かするのが好きなのではない。何かを予定していて、台風にぶつかることがちょくちょくあるのだ。 高校時代、山岳部に所属していて夏山合宿で黒部川源流から槍が岳を目指した。槍の肩までたどり着いたところで大雨になり、顧問の判断で泣く泣く登頂をあきらめた。二十年後、再度挑戦した槍から穂高への縦走が、ちょうど台風の真っ最中になった。激しい風雨の中を槍が岳山荘にたどり着いたら、客は我々だけだった。ピーク時には何百人も宿泊させる山荘が、嵐にミシミシ揺れた。翌朝、はじめて本物の台風一過を見た。快晴なんてものではない。秋の北アルプス空は見事に突き抜けて青かった。 長い待ち時間も開店そうそうの店をひやかしたり、ターミナルを散策しているうちに過ぎた。売店はたくましく、垢ぬけない大阪の新聞スタジオのように頑張っていたが、飲食店街はとてもやっていけるとは思えないような客の入りだった。マクドナルドが全国でここ一カ所だけ、値段を高くしたのも話題だった。 そして正午過ぎ、やっとバンコクをめざして飛び立った。JALだったがスチュワーデスは半数以上がタイ人のようだった。
(ニュースレター15号/2006年5月)