息子と旅をしてみて、事前に心配したような気苦労はなかった。いつの間に大きくなったのか知らないが、そこそこ常識的な気配りもできるようになっていた。一緒にいてプレッシャーを感じることがあったのは、チップに関わることだった。 私の日本での日常生活にチップの習慣はまずない。とは言っても、ちょっとした席などで、年長者が良いタイミングで「心付け」を手渡しているのを目にすることはある。大人だなぁと感心する場面だ。そんな役回りが、二人だとこっちに被ってくる。 ところが私は、お祝いや香典、かたちの決まった挨拶等、そういうことがまったく不得手である。困ったものだとは思うが、まあこれで今まで何とかやってきたんだからと、一人の時には納得している。 しかし、息子と二人でそういう場面に遭遇となると、相手任せにするわけにはいかない。仕方なくそれなりに振る舞おうとするのだが、どうも間が悪い。いくらぐらい・・・、誰に・・、何時・・、と戸惑いの限りを尽くして、失敗する。 後から考えれば、チップを出そうというのだから、タイミングが悪かろうと、多すぎようと文句言われるはずないのである。なのに、戸惑いつくしたあげくがこのざまである。「あ~ぁ、息子は何と思っているだろう。やっぱり日本が暮らし易いよ」と思うのはこんな時だ。
(ニュースレター20号/2007年8月)