旅好きではあるが、準備好きではない。たいてい出発前には嫌になっている。出かけても二日目くらいまでは馴染めなくて、早く帰りたいと思っていることが多い。楽しくなるのはそれからである。
添乗員や現地に知人のいる旅は安心で漏れがない。見所、要所はきちんと押さえられている。それはそれで楽しいのだが、案外見落としのある旅も悪くない。偏った選択にこそ、個性も出るというものだ。
旅の後半は息子と男二人、何をという目的もないものだった。NYのガイドブックはいくら読んでも尽きることがなかった。どんな切り口にしたところで、見落とせないものの山だった。そこで結論は、又来ればいいから、今回は行けるところだけ行っておこうと決めた。その結果、sohoのギャラリーやショップをくまなく見て回ることになった。
6年後、最終の親子旅で再びNYを訪れた。同時多発テロ事件直後で、ホテル代など暴落していた。娘と妻の三人旅だったので、マンハッタン中心の高層ビルのウイークリーマンションを借りた。そこを足場に、ミュージカル俳優を目指す娘の希望で、ブロードウェイの舞台を連夜のはしご観劇した。
(ニュースレター31号/2010年5月)