大阪樟蔭女子大学 石川義之
先ごろ、FLC研究所と共同で、関西圏に在住の女性を対象に性的被害の実態調査を実施した。性的被害の経験率は約80%。8割もの女性が性的被害を経験しているという事実もさることながら、加えて問題なのは、性的被害を経験した女性たちが、自分の受けた被害のことを、他者に語れないという現状が鮮明に浮かび上がってきたことだ。
特に、「電話相談」「女性センター」「警察」「医師・カウンセラー」「女性グループ」などの公共の専門機関・専門家に相談したり、話したり、訴えたりできた被害者はわずか3.4%(筆者が以前行った諸他の調査ではこの比率はもっと低かった)。しかも、この3.4%のすそ野に拡がる残余の96.6%の被害経験者の中には、インセストやレイプの重篤な被害者も、被害の結果重度の心理損傷やPTSDに苦しんでいる人も、被害経験に起因するDVや経済的貧困にあえいでいる人も含まれているのだ。彼女たちのほとんどは専門的介入のないまま放置されているといってよい。
この数値に表れた実態は、専門機関や専門家たちが、その役割を十分に果たしえていない現状を示すものであろう。しかし、この責任は、専門機関や専門家たちの努力不足に帰すべきものではない。むしろ、被害の衝撃に苦悩する女性たちが、その苦しみや悩みを専門機関や専門家に訴える回路が、現代日本のコミュニティでは閉ざされているということにあるのだ。
今回発足したNPOは、「コミュニティづくり」を目指すという。その場合、被害者たちが、専門機関や専門家たちの善意と能力とノウハウを十全に活用できるように、両者を結ぶコミュニケーション回路をコミュニティの中にしっかり埋め込むことに配慮すべきである。このことは、被害者たちのトラウマからの解放のみならず、被害の防止とも確実に繋がっていくはずである。
(ニュースレター創刊号/2002年11月)