女性ライフサイクル研究所スタッフ・津村 薫
「ガテン系」という言葉を知ったのは何年前のことだろうか。バイタリティーは人並みより、少しくらいは多く持ち合わせていると自負している私だが、体力や、ましてや力の要る作業については、恥ずかしながら、お寒い限り。
ところが最近では、街を歩くと大きなダンプに若いお姉さんが乗っていたり、宅配便のスタッフが女性だったり、タクシーやバスで、女性の運転手さんを見かける。あちこちで「男の職場」だと思われていたものに、女性が果敢に進出していることを肌で感じる。仕事ぶりがカッコよく、つい見とれてしまうことも、しばしば。
読売新聞(2月5日夕刊)に求人情報誌「ガテン」(リクルート)編集長のコメントが掲載されている。最近では力仕事も、機械化やIT化でカバーできるようになり、女性が進出しやすい環境が整ってきているという。同誌が1年間に扱う約300職種のほとんどに、女性が参入しているそうだ。中央職業能力開発協会(東京)の「技能五輪」(想像するに、技能の鉄人を表彰するものなのだろう)で、昨年は34職種中、過去最多の8職種で女性が金メダルをとったそうだ。「旋盤や配管、造園などでも女性の活躍が目立つ」と同協会。
鉄道や電機産業など、18種の「男性職場」について、女性の参入状況を調査した山形大学講師の首藤若菜氏によれば、「かつて男性の仕事と言われた職種についた女性ほど、勤続年数が伸びる傾向にある」らしい。鉄道業を例に挙げても、6年未満の離職者は少なく、定着率に男女差は殆どなかったそうだ。
タクシーに乗ったときに、女性ドライバーだと、なぜかホッとする(近場に行ってほしいと頼んで怒鳴られた体験もあるので、男性運転手さんに対しては、「怖い人じゃないかな」と、つい身構えるのだ。もちろん、親切な男性の運転手さんも多いのだが)。女性同士ということで話もはずむ。あるときなど、ホラー好きの血に逆らえず、つい私は「やっぱり心霊体験なんかあるんですか」と聞いてしまった。タクシーに幽霊、お約束の怪談がたくさんあるものだから(笑)。彼女の答えは、「それはよく聞きますねえ。でも、生きてる人間の方が怖いんだって、よくわかりましたよー」というものだったが。酔っ払いに暴力的な人、とんでもない乗客の方が、よほど怖い思いをするそうだ。そりゃそうだろうなあ。「女性ならではの心遣いを活かして」とはよく世間で言われるが、彼女の車内での心遣いは、「さすが女性」というよりは、「さすがはプロフェッショナル」という表現がぴったり。実に快適で暖かいものだった。どこまでも乗客の私に寄り添ったサービスを提供してくれたと思う。
ふと乗った電車のアナウンスが女性の声だった。乗り込んだ市営バスの運転手さんが女性だった。まだ小さな声で乗客たちがささやいているのが聞こえることがある。「女の人やん」「ほんまやなあ」。日本料理の板前を志した知人が、「あそこは男社会で」とこぼしていた。これは経済労働だけには限らない現象だろうと思う。性別や年代を問わず、「よい仕事や、その心意気こそが評価される」社会だといいなあ。女だけが、男だけが、子どもだけが、老人だけが、病人だけが、障害者だけがいる、そんな偏ったコミュニティではなく。
(ニュースレター7号/2004年5月)