大阪樟蔭女子大学・石川 義之
子ども虐待の調査研究もかなり進展してきたが、心理的虐待に関する調査は著しく立ち遅れている。そこで、2004年から2005年にかけて、立命館大学院生(小宅理沙さんたち)や大阪樟蔭女子大学・滋賀大学の学生さんの協力を得て、大阪市の20歳代の男女を対象に層化2段抽出法による無作為標本調査を実施した。その調査結果のエッセンスを紹介する。
心理的虐待は、「養育者の非身体的行動によって子どもに身体的および/または非身体的影響が現れる蓋然性がある場合の養育者の行動」と定義された。その上で、18項目の心理的虐待被害経験の有無を尋ねた。上位5つの被害経験項目は以下のとおりである。[( )内は「被害経験あり」の%を示す。]
「養育者が部屋に勝手に入ったり、持ち物をチェックする」(42.4%)。「子どもを他人と比較して責める」(41.8%)。「家庭内で養育者が暴力を振るっているのを見る」(34.5%)。「養育者が機嫌が悪い時、机を叩いたり、物に当たる」(33.1%)。「話を聞いて欲しいと思う時に、聞いてもらえない」(30.3%)。
以上を含む18項目の被害経験が「1つでもある者」81.0%、「1つもない者」19.0%、被害経験のうち86.9%が「18歳未満の子ども時代」の被虐待経験であった。
<図 心理的虐待被害経験の心理的・社会的影響-共分散構造分析->
上図は、共分散構造分析に基づき心理的虐待被害経験のもたらす心理的・社会的影響の方向と強さを示した図である。矢印の上に示した数値はパス係数といって、因果関係の強さを表している。上の図から心理的虐待被害経験が心理的損傷(PTSDなど)への影響を介して、さらに社会的損傷への影響を介して、社会生活困難度(不登校、摂食障害、自傷行為など)や子ども時代の日常生活不満度(家庭・学校・地域社会などでの生活不満度)や成人期の日常生活不満度(家庭生活不満度など)に対して統計的に有意な影響を及ぼしていることが窺われる。
このように心理・社会の両面にわたって、また子ども時代・成人期の両時期にわたって広汎な影響をもたらす心理的虐待が81.0%の広がりをもって普及している事実は決して無視されてはならない。(詳細は、石川義之編著『心理的=情緒的虐待に関する実証的研究-大阪コミュニティ調査報告書-』大阪樟蔭女子大学
(ニュースレター16号/2006年8月)