石田 文三
私は2005年3月まで兵庫県川西市の子どもの人権オンブズパーソンをつとめ、学校の問題、家庭の問題、はては道で遊ぶと隣のおじさんに怒鳴られるという近隣トラブルまで、さまざまな相談を受け、子どもの意見を聞くことの大切さを改めて実感しました。たとえば不登校の相談で、子どもの親と担任教師が対立し、親が担任をやめさせろと主張すれば、教師は教師で親が子どもの言いなりだから子どもに問題が起こるのだと主張し、大人同士の戦争の様相を呈していることが少なくありません。このような場合にも、オンブズパーソンはただひたすら「子どもの気持ちを大切にする」というスタンスで子どもと向き合い、子どもとの話し合いを続けていきます。すると最初は黙りがちだった子どもも、だんだんと自分の気持ちを話せるようになり、その話してくれたことのなかで、周囲の大人が受け入れられる範囲のことを受け入れていくと、子どもはどんどん元気になっていきます。そして親と教師の対立など尻目に、自分で問題解決の道を切り開いていき、子どもがエンパワーすると、それに引きずられるように、大人たちの関係も改善していったのです。
このようなオンブズパーソンの姿勢について、子どものわがままを助長するとの批判もありましたが、しかし実際に問題が起こったときに、子どもの意見を尊重することによって、さまざま問題が解決するのを見て、批判的であった方々も考えを変えていきました。もっとも、私の関わったケースの全てがうまく解決できたわけではありません。しかしそれは大人(不登校の例でいえば親か教師のどちらか)の側に、子どもの意見を尊重する姿勢が欠けていたからであって、決して、子どもの気持ちを尊重したからではありませんでした。
子どもの意見の尊重は、子どもの権利条約12条が求めるところでもあり、川西市のような制度がもっと広く取り入れられることを願ってやみませんが、それはともかく、私たち一人一人が、常日頃の活動のなかで、子どもの意見、子どもの視点に気持ちを留める努力をする必要があるのだろうと思います。