大阪樟蔭女子大学 石川 義之
2007年次大会のシンポジウムに出席し、4本の報告を拝聴した。いずれの報告も力作で、熱意あふれる取り組みの成果を示すものだった。しかし、惜しむらくは、いずれも、本NPOのモットーであるコミュニティづくりという視点を欠いていた。確かに、農村社会にみられる地縁・血縁の濃密さを欠如した都市社会におけるコミュニティづくりは難しい。長期間にわたる近隣づきあいの深さ・結びつきの堅さ・情緒的愛着の強さを特徴とする農村社会における伝統的コミュニティは、大阪のような都市社会ではもはや不可能だろう。4報告におけるコミュニティづくりの視点の欠落は、こうしたコミュニティづくりの困難の反映であったのかもしれない。果たしてコミュニティづくりは、今日の大都市社会においても可能なのであろうか。
本NPOの目指す犯罪被害を始めとする人権侵害問題の防止・解決に向けては、次のようなコミュニティづくりの方向性が考えられるだろう。その場合、これらの問題の防止・解決に当たっては、専門処理システム(行政や民間専門団体など)のもつ問題処理の質の高さ・効率性を尊重しつつも、コミュニティづくりを通して相互扶助型の問題解決システムを導入することによって、より根本的な問題処理を志向するという基本的認識が肝要だ。
第1は、パーソナル・ネットワークとしてのコミュニティの形成だ。これは、地域共通の相互扶助システムではなく、世帯単位に構成された相互扶助のシステムのことだ。世帯間で資源の融通を図る「互助」を、それぞれの世帯ごとに必要なネットワークとして編成したものだ。これは、地域共通のシステムのもたらす制度的拘束を嫌う都市生活者に適合的な相互扶助システムといえるだろう。
第2は、インスタント・コミュニティとでも呼べるものだ。持続的なコミュニティ的紐帯が「不文律」や「掟」となるとして支持を失う都市生活者の間で、「ときどきコミュニティになろう」というこのアイディアは、イベントの発生とともに成立しその解消とともに消滅する、「緩やかな」ネットワークを基盤としたコミュニティの考え方だ。
第3は、アソシエーショナル・コミュニティである。典型的には、自主防犯組織を有償ボランティアで組織する場合などが考えられる。目的の明確な機能組織体を、住民を組織メンバーとして、この活動だけでは食べていけない有償ボランティアの手を借りて組織したものだ。
第4は、阪神淡路大震災の際の避難所などでみられた利他的コミュニティである。これは、以前の社会的結びつきを前提とせず、危険・損失・被害などが共有されるときに生じる、情緒的結合や相互的助け合い、利他的感情のほとばしり、大衆的救済活動の持続などを特徴とする、疑似第1次集団的な連帯だ。これは、即席の一時的連帯なのでインスタント・コミュニティの1種ともいえるが、同時に治療的コミュニティとしての意味をもつ。
NPOのコミュニティづくりにおいては、自ら主体となってコミュニティづくりを担うという場合もあるが、住民による以上のようなコミュニティづくりを側面から支えることが中心となると考えるべきだろう。(参考文献:野田隆「災害対策と地域社会」『臨床社会学を学ぶ人のために』世界思想社、2000。)
(ニュースレター22号/2008年2月)