理事 石田文三
2008年12月に広島市で第14回日本子どもの虐待防止学会が開かれました。そこでの報告から二点ほど紹介したいと思います。
ひとつは性虐待のことです。あいち小児保健医療総合センターを受診した806名の児童のうち136名、全体の17%に性虐待がみとめられたと報告されました。欧米では1980年代に虐待の中心課題が身体的虐待から性虐待へ移行したと聞いていましたが、日本の統計を見るかぎり、性虐待は全体の数%にとどまり、日本ではそれほど大きな問題とならないのかと思っていました。しかし治療の現場ではやはり高い率で性虐待の被害者が現れているようです。また136名の被害者のうち男児が40名であり、その数の多いことも驚きでしたが、被害者の男児は思春期に性加害行動を起こすことが多いとの報告もありました。「暴力の連鎖」という言葉が頭をよぎり、強いショックを受けました。
二点目は発達障がいと被虐待の関係です。わたしなどは、発達障がいは生物学的要因(脳の器質的な問題)によるものであるのに対して、虐待は環境的要因によるものと区別して考えていました。しかし発達障がいも虐待もあらわれる症状が似ているうえに、どちらも愛着関係の形成に問題があると言えるそうです。したがってその治療というか対処の方法も、愛着関係の作り直しという福祉的ケアと投薬などの医療的ケアの両方が必要であって、この二つを区別する意味がないということでした。また虐待を受けた人は、受けなかった人に比べて(左)脳が萎縮していることが明らかになっているそうです。虐待によって脳そのものがダメージを受けるというのは大変にショッキングですが、学会の報告のなかで紹介された「いやされない傷」(友田明美著 診断と治療社刊)という本を読んでみますと、「本書のタイトルである“いやされない傷”は決して“治らない傷”であるとは考えていない」とありました。つまり虐待による脳のダメージも、医療的ケアと福祉的ケア(育て直し)によって回復できるのだと希望的に考えたいところです。
(ニュースレター26号/2009年2月)