理事長 村本邦子
この夏、ポーランド、ドイツを訪れました。各地の女性支援機関の調査に加え、引き続きナチ関連施設をめぐり、ドイツのことを学びつつ、日本のことを考え続けています。ポーランドは初めてでしたが、クラクフという街に滞在し、アウシュビッツ強制収容所とクラクフ市内にあるユダヤ地区、旧ユダヤ人ゲットー、シンドラーの工場なども見学してきました(「シンドラーのリスト」はクラクフが舞台でした)。ポーランドのユダヤ人の状況については詳しく知りませんでしたが、今回、勉強して、ずいぶん身近に感じるようになりました。
ポーランドはショパンの国です。クラクフでは、毎晩、小さなホールや教会でショパンのコンサートをやっています。一週間くらい滞在して、毎晩、音楽を楽しめたらいいなぁ・・・なんて思ってしまいました。幸運にも若手音楽家のピアノコンサートに行きましたが、一曲目は、「戦場のピアニスト」のノクターンでした。昨年の年次大会で弾いた曲でもあり、とりわけ心に沁みました(「戦場のピアニストの舞台は、ワルシャワ・ゲットーですが)。ちなみに、この映画の監督であるロマン・ポランスキーは、クラクフ・ゲットーを脱出して生き延びた人です。シュピルマンのピアノを聞いて心を動かされたドイツ人将校は、なぜか例外的に彼を助けるのですが、憎しみを超えさせる音楽の力を感じると同時に、シュピルマンの頭の中にいつも音楽があったからこそ、限界状況を生き延びることができたのだろうと思います。彼は、どちらかと言えば、繊細でか弱そうに見える男性ですが、非暴力の力を象徴しているようにも思えます。現在、活動休止状態になってしまった暴力防止プロジェクトですが、今しばらくは芸術を通じた暴力防止活動ということで、音楽をやっていこうかなと考えています(今年の年次大会でもミニコンサートを予定しています)。
一方、ドイツで調査しながら、バッハやヘンデルが演奏していた教会や彫像を眼にしました。ドイツには美しい音楽の伝統があります。アウシュビッツの残酷なまでの美しさはショッキングでしたが、ヒットラーは美を愛する人でした。リーフェンシュタール(この映画監督もかなり興味深い女性です)の「美の祭典」「民族の祭典」を思い浮かべても、ため息が出るほど美しい映像です。同じ芸術でも、何をどう間違えば想像を絶するほど残忍な排除に行きつくのか、私にはまだわかりません。
私たちのNPO活動も、いよいよ6年目に入りました。小さな活動しかできませんが、皆さまと一緒に、安心と平和の輪を広げていけたらと願っています。
(ニュースレター25号/2008年11月)