理事長 村本邦子
コミュニティと加害・被害
10月、南京にて、国際セミナー「南京を思い起こす2009~戦争によるトラウマの世代間連鎖と和解修復の可能性をさぐる」を開催するので、その準備に追われている。このニュースレターが発行されている頃には、すでに無事終了しているはずなのだが、これを書いている時点は、開催1週間前を切ったところ。2年前から暖めてきた企画で、8月末には現地に打ち合わせにも行き、このひと月、かなり神経を使って準備してきた。米国からホロコーストサバイバーの2世でもあるドラマセラピスト、アルマンド・ボルカスを招き、4日間のワークのファシリテートに入ってもらう。そもそも、2年前、南京虐殺70周年のカンファレンスに参加した時、中国の学生たちがものすごく喜んで迎えてくれ、口々に「日本の学生たちと交流したい。是非、連れてきて!」と熱く訴えられ、何とかその思いに応えなければと準備してきたものだ。
中国側と日本側の参加者、それぞれが自己紹介カードを書いて、事前に交換することになっていて、翻訳やら何やら準備しているのだが、チラと見ただけでも、それぞれの思いに背筋が伸びる思いである。たとえば、中国の若者の反応として、「親や祖父母から戦争中の話を聞いて、日本人を憎いと思ってしまう自分を乗り越えたい。憎しみは自分自身をも傷つけるから。こんな企画をしてくれることがとても嬉しいし、ありがたい」といった類のものがある。2年前に行った時にも強く感じたことだ。私たちの側が、過去に眼を向け、感じることや考えることを伝え、新しい未来に向けて姿勢を正していこうと努力することそのものが中国の人たちに影響を与えているのだ。まったく逆のことも言えるだろう。私たちが過去を無視したり否定したりすることが、中国の人たちをさらに苦しめるということだ。
こうなってくると、戦争は過去のことだから、直接、戦争に関わっていない世代には無関係なことだとはとても言えないことになる。私たちは本当につながりのなかに生きているのだなあと感じる。さまざまな被害者・加害者プログラムにおいて、直接的な被害者、加害者だけでなく、コミュニティの存在が重要な意味を持ってくる。不正義が行われた時、コミュニティ自体が傷つき、コミュニティ自体が修復を望むのだ。過去、現在、未来もつながっている。安心とつながりの未来をつくるために、過去の影響を受けて存在する現在の私たちがどんな選択をしていくのかが決定的な影響力を持つことになる。しっかりとできることをやっていきたい。
(ニュースレター29号/2009年11月)