理事長 村本邦子
It's a small world.
3月11日に起きた東日本大震災は今なお厳しい影響を与え続けています。大切な人や大切なものを失ってしまった方々、不安定で不確かな生活を余儀なくされておられる方々、日夜、被災者や被災地のために働いておられる方々、今なお想像を絶する困難な状況におられるだろう方々のことを思うと苦しくなり、哀しみと無力感に圧倒されます。関西にいて普通の暮らしをしていることに罪悪感を持ったり、自分たちのショックについて語ることに気がひけてしまったりしますが、本当のところ、ほとんど誰もが今回のことで大きな影響を受けているのだと思います。
私自身は京都で揺れを体験し、その後すぐに国外に出なければならず、外から日本の状況を眺めるという立場にありました。国内にいるのとはまた違って、いろいろ感じさせられました。ひとつは、自分の故郷(国外にいると日本全体が故郷のように見える)が危機的状況にあるときに自分はそこにいない不確かさや無力感、孤立感、罪悪感のようなもの。そして、いろんな事情を抱えて亡命せざるを得なかった人々の気持ちを思いました。ベルリンの虐殺博物館は疑似体験できる構造になっていて、「亡命」という通路を進むと、いきなり開かれた空間に放り出され、めまいを経験するようになっています(足元が斜めになって時空が歪んで経験される)。
繰り返し襲う余震と津波。日本国内はもちろんのこと、ハワイでもその日の晩には避難勧告のサイレンが響き渡り、皆避難したとのこと。私が滞在していたカリフォルニアにも津波が押し寄せ、犠牲者が1人出ていましたし、原発の影響がアメリカにも届くのではと大騒動でした。もうひとつ、強く感じたことは、私たち皆が地球という小さな惑星を共有しているのだということでした。科学技術が進歩すればするほど、いろいろな意味で世界は小さくなるのです。ディズニーの”It’s a small world.”が浮かんできました。「太陽も月もたったひとつ、言葉は違っても笑顔は友好を表わし、山や海が世界を分けたところで、結局のところ世界は小さいのだ!」という歌です。もともと平和な世界は子どもたちが創るのだというユニセフの理念に基づいて作られたアトラクションです。
ハワイにいる息子はラップをしながら友人たちと募金活動をして、あっという間にたくさんのお金が集まったと喜んでいましたし、国外にいる留学生たちもさまざまな活動を展開しているようです。若い人たちにとっては、本当に世界は小さく、「私たちはひとつ」と思えるのだなと実感しています。危機意識から保身ではなく、小さな世界のつながりの意識が強化されていけばいいなと思いますし、私たちが共有する小さな地球を大切にしていかなければならないのだと改めて思います。1日も早く皆が安心した暮らしができますように。震災前も安心した暮らしを送れていない世界中の人々とともに。
(ニュースレター35号/2011年5月)