理事長 村本邦子
スペインを巡って
今年は、新年をスペインで迎え、アンダルシアを巡ったが、もっとも印象的だったことは、イスラム文化の素晴らしさだった。恥ずかしながら、これまでまったく無知だったが、711年のジブラルタル上陸から、1492年のグラナダ陥落、レコンキスタ(国土回復運動)の完成まで、800年もの間、イベリア半島にはイスラム文化が繁栄していた。
コルドバのメスキータは、8世紀の終わり、イスラム教の寺院として建造され、10世紀末には巨大モスクとなったが、レコンキスタによって、カトリック教会に転用される。16世紀、スペイン王カルロス1世の時代に、モスク中央部にゴシック様式とルネサンス様式の折衷の教会堂が建設され、イスラム教とキリスト教が混在する不思議な建造物になった。これまで見たもののなかで、もっとも興味深く魅力的な建物だ。
そして、グラナダのアルハンブラ宮殿。イベリア半島最後のイスラム王国であり、グラナダを首都としたナスル朝に大きく拡張されたが、グラナダ陥落後、カルロス1世が改築を加え、モスクは教会に変えられた。これがまた素晴らしく感動的な建物である。とくに、これらイスラム建物に見られる模様(天井や床のタイル、窓枠の透かしなど)が何とも美しいのだ。偶像崇拝を禁じるだけに、シンボリックな表現が洗練されていくのか。
イスラム文化の高さとともに、その寛容さにも驚かされる。イベリア半島に勢力を拡大した時代も、ユダヤ教徒やキリスト教徒を保護し、イスラム教を強制するでなく、異民族に対して寛容な政策をとっていたという。そう言えば、一昨年、エジプトで出会った青年が「イスラム教もキリスト教もユダヤ教もみんなきょうだいです」と言っていた。現在のような状況に至るまでには、歴史的経過があるわけだ。その背後には、ヨーロッパにおけるイスラム文化への嫉妬や劣等感があったのではないかとさえ思えてくる。
世界中のあちこちで、さまざまな文化が衰退を繰り返してきた。自分と異なる存在を尊重し、そこから互いに学ぶためには何が必要なのだろうか。昨年の大災害であらわになったことのひとつは、国内の植民地主義とも言うべき状況、すなわち、中央が地理的周辺部を抑圧搾取してきた構造だった。これから私たちはどんな方向にむけて社会を建て直していくのか。昨年は、震災復興支援プロジェクトを通じて、東北各地を訪れた。今後、十年続けていくが、手がかりは各地の文化を学ぶことであるような気がしている。同時に、世界や歴史にも学ぶべきことがたくさんあるようだ。大きな視点で捉え直してみたい。
(ニュースレター38号/2012年2月)