理事長 村本邦子
否定的なコミュニティ感覚!?
「あなたが所属するコミュニティは?」と問われたら、何と答えるだろうか?地域か、学校か、職場か、あるいは趣味のサークルや運動団体、自助グループだったりするかもしれない。私自身について言えば、真っ先に思い浮かぶのは、やはり職場である。それだけ、働くことのウェイトが大きいのだろう。長い間、女性ライフサイクル研究所は、職場であると同時に家族的な場でもあった。コミュニティ感覚を形成するものは、①メンバーシップ ②影響力 ③統合とニーズの充足 ④情緒的結合の共有であるとされる(McMillan&Chavis,1986)。所属感と互いの影響力、ある種の一体感、共有である。絆の強い職場コミュニティは情熱にあふれ、満足度も遂行度も高くなるだろう。
現在は、大学での仕事の割合が多くなり、かなりの時間とエネルギーを向けているため、こちらでのコミュニティ感覚が高まった。ただし、大きな組織であり、その場、その場で多種多様な責任と役割があるため、緩やかな大きな円のなかに小さな円がいくつも重なり合っているイメージだろうか。何でも常に全力で取り組んでしまうため、やってもやってもきりがなくて、ペースをつかむのに時間がかかった。昨年は相当に悩んだものである。
最近、「否定的コミュニティ感覚」という概念が提唱されているそうだ。人がより大きなコミュニティについて強く否定的に感じているとき、自身でそのコミュニティから距離を置いたり、否定的コミュニティ感覚を養うことでコミュニティの関与に抵抗し、自らのウェルビーイングを強化しようとするという(Brodsky, 1996)。コミュニティの否定的側面に自覚的にあり、抵抗することで獲得する力と言えるだろうか。戦時中に権力に抵抗して検挙・投獄された人々が思い浮かぶ。しかし、それとて、コミュニティなるものへの理想や希望を持ち続けることができるゆえの選択ではないだろうか。
古希を迎えた大先輩・植村勝彦さんの『現代コミュニティ心理学~理論と展開』(東京大学出版会)を読んで、そんなことを考えた。
(ニュースレター40号/2012年8月)