理事長 村本邦子
コミュニティ・エンパワメント
昨年、大学の方で「東日本・家族応援プロジェクト」を立ち上げ、十年間、毎年1回、東北に通うことにしました。目玉は、このニュースレターに毎号、連載している本NPO理事・団士郎さんの家族漫画展で、週末に支援者支援や子どもワークショップなど、オマケのプログラムがついています。昨年は、青森県むつ、岩手県遠野、福島県福島を訪れ、今年は、青森県むつ、宮城県仙台・多賀城、岩手県遠野・大船渡、福島県福島を予定しています。
9月にむつでのプログラムを終えましたが、むつでは、中核となってくれている方の力で現地の共催機関を広げ、教育委員会、児童相談所、公民館、図書館が一緒になってプロジェクトを受け入れてくれました。地域の機関からそれぞれスタッフが集まって会議を重ね、支援者支援プログラムでは、所属を異にする支援者たちがグループでワークできるような設定を工夫し、多職種のコミュニケーションが可能になりました。こんなことの積み重ねが、日常の生きた支援ネットワークを作るのだと思います。「むつの支援者たちが、こんなふうにネットワークし、むつの家族のために力を合わせることができれば、10年後には、きっと、むつの家族が幸せになっていると思う!」という現地スタッフの言葉を聞き、このプロジェクトをきっかけに、むつのコミュニティ・エンパワメントが起こっていくとしたら嬉しい限りだと思いました。
9月は、たまたま仕事で水俣を訪れる機会があり、以前から関心のあった水俣病資料館へ行ってきました。展示のあちこちから「二度と同じ過ちを犯すな」という被害者たちの悲痛な声が聞こえてきて、それにも関わらず過ちを繰り返し続けている日本社会に絶望を禁じ得ませんが(もちろん、その責任の一端を自分も担っています)、他方、水俣の「もやい直し」(ばらばらになった人々の心のきずなを一つにつなぎ直す)には希望を感じました。汚染土をコンクリートで固めて埋めたまま、いずれはそこに美しいバラ園が拡がるでしょう。水俣は、市民主導の市政によって政府が最初に指定した「環境モデル都市」の1つに選ばれています。水俣病の問題は終わってはいませんが、私たちが学ぶべきことが多くあるように思います。
さまざまな矛盾を抱えながらも人々は力強く生きていきます。1年に1度しか行けない遠方の者に何かできるはずもなく、それぞれのコミュニティに一番合った復興の仕方をコミュニティの人々が構築していくのでしょう。緩やかな形で関わらせてもらいながら、私たちは私たちの場所でどんなふうにコミュニティ・エンパワメントを起こしていけるのだろうかと考え続けています。
(ニュースレター41号/2012年11月)