理事長 村本邦子
コミュニティの安全と安心のために
昨年は、原発・エネルギー政策に関して、日本には珍しく大規模なデモが繰り広げられ、夏には野田政権のもとで2030年時点での原発比率に関する「国民的議論」が行われ、民意は大きく反対の方向に動いたように見えたのに、どうにも納得のいかない選挙結果となった。これは、原発賛成というよりも、安倍晋三氏も認めているように、民主党3年の混乱に対するノーと考える方が適切だろう。
年末に、NHKドキュメンタリーで「原発の“安全”を問い直す ~米NRC前委員長 福島への旅~」という番組をやっていた。「米NRC」とは、アメリカの原子力規制委員会のことで、前委員長グレゴリー・ヤッコ氏は素粒子物理学の専門家、福島の事故を受けて、安全基準の見直しを訴え、アメリカで32年ぶりの原発建設許可のNRC投票で唯一反対票を投じたという。ヤッコ氏は任期を1年残してNRCを辞任、二本松にある浪江町役場や仮設住宅を訪れる。そもそもアメリカの原発の安全基準は、放射能によって負傷・死亡する人がいない限り、「想定の範囲内」であり、原発の周辺地域が汚染され、1年が過ぎて9万人を超える人が自宅に戻ることもできないという問題には対処できないのだそうである。あらためて、安全・安心とはいったい何なのかと考え込んでしまう。
大学の方で立ち上げた東日本・家族応援プロジェクトを通じて、下北や福島の人々、京都の避難者たちと知り合うなかで、原発の問題は他人事どころか、加害者側に加担してきた立場として向き合わざるを得ない。平和活動も同じであるが、たとえ無力であったとしても、最後まであきらめないでおこうと決意している。安易な快適さを求めないこと、面倒くさい手間を惜しまないこと、自分のことのみに囚われてしまわないこと、隣人を愛すること、長期的で地球規模の視野を持つこと、そして、ひとりひとりが大切だと思うことを細々でも息長く続けていくことが重要だろう。
いろいろあっても一歩前進の年にしたいものだ。
(ニュースレター42号/2013年2月)