活動会員 長川歩美
私達は日常的に音楽の効用を経験しています。明るい音楽で気分転換を図ったり、激しい音楽でうっぷんを晴らしたり、穏やかな音楽でリラックスしたり・・また、ふと流れてきた音楽に思わず心打たれたり、といった経験は誰にでもあるでしょう。その他、お酒や野菜にクラシック音楽を聴かせると美味しくなる、歯科治療時に音楽が流れることで痛みの感覚が和らぐなどの話を耳にした方も多いのではないでしょうか。このような音楽の効用については現在多くの研究がなされています。
最近では音楽療法という、音楽を治療的に用いる方法も多く紹介されるようになってきました。音楽療法は音楽の心理的・生理的・社会的機能を用いて、対象者の症状や行動、または心の構えの変化させることを目的として行われるもので、大きく分けると能動的音楽療法と受動的音楽療法があります。前者は対象者自身が音楽の演奏に関わるもの、後者は音楽の鑑賞を中心にしたもので、それぞれ様々な方法が開発されています。
音楽で治療効果を得るためには、その人のその時の心理状態に最も近い音楽から入ることが大切だとされています。気めいっている時にはテンポのゆっくりした暗いメロディーの音楽を、イライラしているときにはテンポの速い破壊的な印象の音楽を聴いて(演奏して)みるのです。こういった音楽の取り入れ方には、人の自律的な復元力が働き出すためには、その人のその時の心理状態に共鳴する「同質」の刺激が必要であるという考えが背景にあります。これはカウンセリングで、どんな気持ちであっても共感して聴いてもらうことが大切であることに似ています。
ただし、このような気分に合った「同質」の音楽にのめり込んでしまうと、気分が慢性化する危険があるため、数曲聴いて気分が変わった後には「調整」の役割を持つ音楽に移っていきます。さらにセラピーの終わりには、覚醒効果のある音楽で「導出」して終るのが大切だとされています。つまり、「同質」の音楽から入り、治療効果のある音楽で「調整」して、最後に覚醒効果のある音楽で安全に「導出」されると、音楽の持つ治療効果が充分に発揮されるということになります。難しいようですが、要は惰性で聴き続けるのではなく、気持ちの移り変わりに応じて聴きたい音楽を聴く、ということのようです。ちなみにクラシック音楽の90%が「調整」に必要な性質を備えているそうです。
音楽療法の研究では、問題行動のある少年に能動的音楽療法を適用した事例や、高齢者医療の現場で受動的音楽療法を実施した事例など、攻撃性・イライラの軽減・緩和における音楽の効果が検証されています。
*暴力防止Pでは現在個人・集団を対象にした提供プログラムへの音楽の適用可能性を模索しています。アイデアをお持ちの方、一緒に音楽を楽しみたい等ご興味をお持ちの方は、当NPOまでお問い合わせください。
(ニュースレター26号/2009年2月)