暴力防止プロジェクトでは、関連のさまざまなプログラムについて研究中です。
関心のある方は是非どうぞ。
7月7日研究会:「紛争の心理学」に学ぶPOPの深層民主主義
プロセス指向心理学(POP)は、ユング心理学を発展させたもので、「個人の内的自覚とその増幅」及び「全体論(ホロニズム)」に端を発します。特に『紛争の心理学』は、著者のミンデル夫妻が文化、宗教、貧富、性、テロリズムなどを中心に世界で活動を行ってきたワールドワークの技法がまとめられていました。ワールドワークでは、対話を中心とし、参加者同士が共に受け入れられない抑圧された葛藤を自覚し、それを互いに深めていくというプロセスを踏みます。もちろん個人的な価値観を多分に孕むので、意見の衝突は不可避ですが、互いの歴史や抑圧された感情や意見を共有するというプロセスによって、個人間が変容していくきっかけになります。ワールドワークは、これらの個人の変容が、引いては世界の変容をもたらすという全体論的な指向性を含むのですが、そもそも一人一人を尊重し、なかなか口に出せなかった対立する感情や意見を共有する、すなわち多様性・差異を認め合うという深層民主主義の考え方は、非暴力プログラムにおいても、多くの点で今後参考になるのではないかと思います。(高岡昂太)
9月11日研究会:A.S.A.P. (A School-Based Anti-Violence Program)に学ぶ
A.S.A.P.はSchool-basedの暴力防止プログラムです。学校においてどのように導入し,成功させるためには何が重要かなどのポイントが示されています。また、人間関係における暴力とはどのようなものか,プログラムを妨げるものは何かが例示され,自らも一緒に考えていくよう設計されています。A.S.A.P.は,どのような暴力が,どこに,どれくらい潜んでいるのかを理解し,無関心にならず,個々人が認識を高め,身近なこととして取り組むことが重要だと主張しています。対象は,教師やそれ以外の学校関係者,生徒やその保護者も含まれています。また,組織としても個人をサポートする委員会の設置やガイドラインの作成が必要とされます。そのためには,断固とした姿勢(ゼロトレランス)が重要なのです。A.S.A.P.では,学校での暴力だけではなく,家庭や地域,デートにおける暴力などの直接的なものから,特に家庭で暴力を目撃してしまった児童も対象となっています。それらにどのように介入していくかは,組織全体として取り組むべき課題です。
このようなプログラムを評価するのは,簡単なことではありません。認識レベルが上がったか,その後の行動に変化があったかといった観点からの評価が考えられますが,その場限りでは意味がなく,長期的に意識が保たれなければ,効果は計れないでしょう。1つのプログラムを,導入し成功させ,それを評価するといった一連の流れを知ることは,今後私たちの目的に合ったプログラムを考えていく上でも,とても参考になり,問題点も見出せたよい機会でした。(本田浩子)
プログラムを導入した後、その成果をどう評価するか、また定着させるためにはどうすべきかが、問題として提起されました。また、A.S.A.P.が教師以外の学校関係者もプログラムに組み込んでいたことから、日本では学校の問題では教師中心になる傾向があること、最近は教師以外の学校関係者を対象としたWSが開かれるなどその他の学校関係者にも目が向けられはじめる可能性があることなどに言及し、制度の違いなど、海外のプログラムを参考にする際の留意点を再認識しました。今後も国内外の様々な取り組みに学び、今回提起された問題の解決を図るとともに、ニーズの調査を十分に行うことが今後の課題となりました。(福田央子)
(ニュースレター第21号/2007年11月)