活動会員 桑田道子
2006年度のVi-Projectは、3月に「子どもと非同居家族を取り巻く状況についての実態調査」を終え、その報告書を携えて、モニター事業に着手し、今後、直接支援を提供する足がかりとなるように、と走ってきた1年でした。
別居・離婚後、当然、(元)夫婦間の葛藤は非常に高いものですから、スタートした春には、実際に、このモニターへの応募があるのか、あるとしたら、どのようなニーズを持った人たちが依頼者となるのか、見当がつかないところも、また、離婚を経た家族に第三者の介入がどのように作用するのか、手探りなところも多々ありましたが、この1年で約80件の依頼・問い合わせに応じ、十数名の方への事前面談、面接実施の運びとなりました。
Vi-Projectは、なによりも「子どもにとって、面会が良い時間、良い交流、良い機会となるために」(以下のVi-Projectミッションもご覧ください)サポートするものですから、面会実施援助を引き受けるケースは「父、母双方に、面会実施への合意があること」を第一条件としてきました。「自分は会いたいが、養育親(同居親)が拒否している」という非養育親(別居親)からの問い合わせ自体は多数ありましたし、上記条件を掲げることに対し、「相手方の同意を得るために第三者が動くことが、サポートなのではないか」という指摘を頂くこともありました。けれども、養育親が拒否しているもとでの面会が、子どもにとって精神的負担になる可能性が高いことは否めませんので、その点は固持してきました。
ただ、双方が面会実施に合意しているとはいえ、面会に際して、直接的やりとり自体はなくても、実際には第三者(Vi-Project)を通して、お互いに信頼感情がないままに、やり取りをしなくてはいけないわけですから、夫婦間での衝突が再燃してしまう場面となりやすいことも事実です。そして多くの場合、その双方の主張は、相反するものでもありますから、Vi-Pスタッフは、双方の感情的な主張に振り回されることなく、実施に向けて調整していくスキルをさらに身につけていかなくてはいけないと感じています。
Vi-Projectがお手伝いした面会の、数名の子どもたちは、どの子も、非養育親と会うなり飛びついて…といったドラマのようなシーンはありませんでした。養育親と別れて、スタッフと子どもだけで非養育親との待ち合わせ場所へ移動するときは、緊張した面持ちでいるし、非養育親の顔を見つけると、つないでいた手にギュッと力が入って、固まっていたりします。その姿を見ると、「面会が、この子にとって負担になっているのでは?」と思うときもありましたし、予定時間を早めて面会を切り上げる選択を取ったこともありますが、帰りの待ち合わせ場所に非養育親と現れるときの満足げな表情、どんな一日だったかをスタッフに話してくれる様子からは、非養育親からの愛情をたっぷり吸収して過ごした時間だったんだなぁと思わせられ、ホッとします。
まだまだ課題は多くありますが(次ページにVi-Pスタッフ亀田さんが検討課題をまとめてくれています)、2007年秋以降の、直接支援に向けて、少しずつ、コマを進めていきたいと考えています。
●活動会員 五味幸子
このたび、2007年度からのプロジェクトの本格的始動に向けたモニター活動を終了した。本活動を実施するにあたり、モニター実施に至らなかったケースを含め、何らかの媒体を通じて私たちの活動を知った人びとから寄せられた声や思いからは、こうした支援への社会的要請の存在が強く感じられた。実際のモニター・ケースからは、インテークから面会同行といった一連のサービスに携わるなかで、多くの気づきを得ることができた。私たちのなかで「子どものための面会支援」という軸がブレることはなかったが、養育親、非養育親、子どもという三者それぞれの感情や思いに直面することで、何をもって真に「子どものための面会」といえるのかという問いを自分たちに改めて問いかけながら活動に取り組んできたように思われる。
本活動を実施することで、わたしたちは新たな気づきを得、整理するべきこと、自分たちに問い直さなければならないことを再確認できた。本格的始動に向け、これまでの作業をじっくりと振り返りそこから次の一歩を踏み出していきたい。
●活動会員 後藤晶子
2006年5月からVi-Pの本格的始動にむけてのモニター事業を実施し、私もこの一年間でいくつかのインテークや面会に立合った。実際に私たちが関わったケースの多くは、離婚して間もない親子の面会であった。子どもたちは、2歳から7歳くらいでまだまだ幼いといえる年齢であったが、それぞれに離れて暮らす親との面会を緊張して迎えていたのが、とても印象的であった。「どきどきする」という子どもや口数が少なくなる子どもたちが、しばらく会っていなかった親と顔を合わせると徐々に緊張を解いていく様子や、迎えに行くと楽しかった時間を物語るような生き生きとした表情にこちらも毎回ほっとさせられた。また、ほとんどの養育親が自分の中では葛藤を抱えつつも、子ども達が非養育親との時間を過ごせるよう配慮している様子をみるにつけ、やはり「面会実施」だけでは本当の援助にはまだ至らないのでは、という思いを強くした。このモニター事業での発見や反省を反映させて本格実施に臨んでいきたい。
●活動会員 亀田佐知子
Vi-Projectではミッションに則って、今後も面会実施サポートに取り組んでいきますが、モニター実施から得られたいくつかの検討課題をここに紹介します。
【Vi-Project直接支援内容】
・子どもへの自己紹介の方法。愛称(子どもに呼んでもらいやすいもの)の設定。短い受け渡し時間の間にどれだけリラックスしたいい関係を築けるか。
・クライアントからの要望にどこまで対応するか。Vi-Pの意見・立場をどこまで、どのように表現するか。
・Vi-Pスタッフとしての(父、母、どちらの側の立場でもない)言葉の使い方・配慮。
・感情的になりがちな両親へ、教育的プログラム(子どものいる離婚者を対象とした親教育プログラム)を提供する必要性。
【Vi-Projectシステム】
・料金設定(スタッフの時間的・精神的労力への対価)
・ルール設定(同意書、日時の設定期限、養育親のキャンセルなど)
・ケース進捗状況の管理方法(いかにスタッフ間で時差なく情報を共有するか)
・クライアント個人情報の管理方法
・スタッフ(人手)不足の解消
◆ Vi-Project Mission ◆
両親の別離により一方の親と離れて暮らす子どもたちが健やかに、より豊かで実りある人生を歩んでいけるよう子どもの気持ちを第一に考えたサポート活動を推進します
- 1. Empathy 共感
- 離婚/別居により離れて暮らす、親と子どもの面会・交流を子どもの気持ちや成長過程を尊重してサポートします。
- 2. Security 安全
- 子どもの心身の安全が保障された場所で安心して面会・交流が行われるようサポートします。
- 3. Self-Esteem 自尊
- 子どもが両親や社会と健全なつながりをもち、自分は愛される存在だという自尊感情を育めるようサポートします。
- 4. Relationship つながり
- 子どもと両親が、互いを尊重する肯定的な関係を築いていけるようサポートします。
- 5. Advocate 提言
- 両親の離婚/別居を経験した子どもたちの気持ちやニーズを社会に伝え、私たち大人にできることを提案していきます。
(ニュースレター第19号/2007年5月)