正会員 桑田道子
今号では、私達が2007年のモニター時からサポートしているAさんケースを個人を特定しない形でご紹介したいと思います。
Aさんは別居父でした。離婚後、約1年会えずにいる子どもとの面接交渉の調停と同時進行でVi-Pへアクセスされ、調停の場でVi-Pの利用を提案されました。当時、子どもは1歳6ヶ月。既に数回の調停で母は面会を拒否され、不調に終わるのではという状況でしたが、父からのその提案を受け、母からVi-P宛てに「どのような団体であるか、どのように面会をしていくことが出来るのか」問い合わせがありました。
「まだ子どもが小さいときには、子どものその後の人生を考えると別居親との思い出がない、理解していない今のうちに関わりは絶っておきたい。それを決断するのもまた同居親の努めである」と考えておられる同居親の気持ちもよく聞きます。ただ、私達がサポートしている別のケースでは、まだ1歳に満たない乳幼児や1~2歳の幼児が、祖父母やVi-Pスタッフや他の関係者である大人が抱っこすると泣き叫び、月に1度会うか会わないかの別居親へ手を伸ばして抱っこを求めたり、抱かれると泣き止んだりというようなこともあります。なにか伝わるもの、赤ちゃんである子どもが本能的にわかるものがあるのかもしれません。
事前カウンセリングを経て、母も100%面会実施に同意ではないながらも初回面会が設定されることになりました。「1分でも遅れたら警察を呼びます!」と言っていた母。朝の受け渡しでは母子どちらも複雑な表情でした。当日は「~してはいけない。~するように」と面会にあたってのルールがたくさん設定されました。戻ってきた子どもを笑顔で迎えるのも難しかったと思います。どう過ごしたのか、誰がいたのか。あれこれ聞き出したい気持ちもありました。
このようななか面会を続けていかれ、途中、母子の引越しや別居親との関わりを維持することへの迷いなどから面会が8ヶ月も中断されることもありました。母の困惑もよく理解できましたが、そのときの別居父の冷静な対応は素晴らしいものでした。突然会えなくなる、連絡が取れなくなるなんて、恐怖と怒りでいっぱいだったと思いますが、父は落ち着いて将来を見据えて、辛抱強く応じられ、無事に面会再開となりました。
そして4年目の今年。定期的に決まった月日での面会だったAさんですが、母から「○~○日に、地域のクラブの合宿で○県へ行くのでよかったら見に行ってやってください」と申し出があり、通常の面会にはカウントされない面会が実施されました。父もいつもとは違う、友達とはしゃいでいる子どもの姿やスポーツを頑張っている姿を見ることが出来、喜んでいました。さらには、これまで日帰り面会のみでしたが、「お泊まりも出来るようになったので」と母から宿泊面会を申し出てくれ、この秋、父宅に宿泊しての面会が行われました。
父母双方が子どもを中心に、確かに変化しておられることを感じ、私達も本当に嬉しい出来事でした。父母それぞれも自分達の生活を大切にしながら、さらに子どものためにどのような環境をプレゼントできるか、よく考えておられます。私達の関わりはとても部分的なものではありますが、父母と一緒に子どもの成長を楽しみにしています。Aさん達との出会いそのものが、私達にとっても宝物のように思っています。
(ニュースレター33号/2010年11月)