理事 桑田道子
2月末から3月上旬にかけて、立命館大学家族法研究ユニットより、ドイツ(シュトゥットガルト)・オーストリア(ウイーン)の新しい家事紛争解決モデルのヒアリング調査に加わらせていただきました。
ドイツでは2009年「家事事件及び非訟事件手続法」が、親の配慮(日本の親権にあたります)、面会交流等の事件手続について、子の福祉に反しない限り、裁判所は当事者の合意を促さなければならないと改正されました。ドイツは日本と違い、離婚時には必ず裁判所手続を要します。ですからその際に、子どものいる家事事件については、裁判官がその勝敗をつける解決ではなく、両親である当事者が協議し、合意を形成できるよう裁判所が手助けすることになります。
今回の調査では、その手助けが具体的にどのようになされているかを知るため、裁判所、司法省、少年局、心理相談所(公的機関、民間機関の両方)でのヒアリングを行いました。司法省は日本の法務省にあたるのかもしれませんが、今回、離婚後の家族支援に関する司法省と社会省の協働での取り組みをヒアリングさせて頂いたため、自治体でいうと、男女共同参画・子育て支援・地域福祉を管轄するような組織に似ているように思いました。少年局は児童相談所に似ています。
当事者自ら少年局や心理相談所へ行き、離婚に関する相談をし、アドバイスを受けることもできますが、自分達の意思では相談へ行かなかったとしても、離婚を裁判所に申し立て、当事者同士の合意がとれていない場合には、彼らが相談・協議できるよう、少年局、心理相談所へリファー(紹介)されます。子どものことを一番よく知っているのは子どもの親であり、子どもにとって有益な離婚後の親子の関わりについて合意を作っていこうとする考えに基づいています。どの組織でも「合意に基づく和解」と何度も言われていたことが印象的でした。
Vi-Pを利用される方々のなかには、Vi-Pスタッフを交えた協議(父母が個別の場合と夫婦揃っての場合といずれもあります)と家裁での調停を並行して利用し、Vi-Pでの協議事項を調停で担保するようなやり方をとっておられる方もいらっしゃいます。手間と時間はかかりますが、誰もが安心できる良い方法だと思います。
ただ、多くの離婚家族と接するなかで、面会(離婚後の親子関係)に関する取り決めというものは、一旦決めたことを長く適用できるのは稀なことだと感じています。というのは、やはり子どもの成長に沿ってどんどん変更していく必要のある類のものだからです。離婚当初に決めていた面会時間が、子どもの成長に伴って延長可能となることもあります。また、「会ったときには~をする」と決めきれるものではありませんし、頻度を決めても、子どもの生活状況の変化によっては取り決めを遵守するのは難しくなってきます。
「年に数えるほどの面会なのだから、なによりもそれを優先すべきで、子どもも自分と会うのを喜んでいるし、子どもにとって必要なこと。そうできないのは同居親の努力不足」と主張される別居親は多く、その気持ちはわかります。別居親自身も苦労しながら諸事情を調整して、面会日を設定されているのですから。しかし、子どもも子どもの世界をつくっていかねばいけませんから、なかなか難しいものです。地域の集まりと父との面会のどちらに行くかを「どうしよう、究極の選択やな…」と言った小学生男児もいました。
かといって、長く利用できるようにとの目的をもって曖昧な文言で(月に1回程度(・・)、や、必要(・・)に(・)応じて(・・・)適宜(・・)協議(・・)する(・・)など)取り決めをすると、せっかく決めたにもかかわらず、初回から具体的な面会設定が一切成立しないようなこともあります。だからこそ、父母双方に柔軟な姿勢と、トライしてみながら子どもに適したやり方をみつけていこうという姿勢が重要なのだと思います。また、一旦決めた取り決めが使えないのは、すなわち子どもが成長している証だと喜びとして捉えられる気持ちも大切なのでしょう。そして、その次の段階では、子どもだけでなく父母双方にとっても納得がいき、都合の良い関係性、距離感を見出していける、そんな合意形成の手助けをVi-Pがしていけることを願っています。
※次号では、ドイツの特徴的な「面会交流権において、子どもの利益を代弁する子どもの代理人制度」をご紹介予定です。
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(ニュースレター39号/2012年5月)