正会員 桑田道子
家事審判法が見直され、家事事件手続法として成立し、2013年1月1日より施行されています。同法では、一定の事件において、意思能力があれば子ども(未成年者)であっても手続行為能力があると法文上明記されました。そして、家庭裁判所は、子どもの意思の把握に努め、年齢・発達の程度に応じてその意思を配慮しなければならないとされています。これによって、子どもが手続に関与し、手続行為を行う場合に子ども自身が弁護士に依頼して手続代理人を選任したり、裁判長・裁判官が必要があると認めるときは申立または職権で弁護士を手続代理人に選任することができることとされました。
子どもの手続代理人となるのは、原則として弁護士です。子どもや親から選任される私選と、裁判官から選任される国選があります(ただ、子どもによる選任【弁護士を選び、契約し、費用を支払う】というのが現実的にどんな場面なのか、今後の動向が注目されます)。
子どもの意思を把握するという点においては、これまでも家庭裁判所調査官制度があります。心理学等の専門的知見をベースに調査官が子どもの意向を調査するものです。その調査官制度と、子どもの手続代理人制度は以下のような違いを想定されています。
調査官による調査は、裁判官の命令によって、審判に役立つ資料の収集を目的として子どもの意思を把握するものであり、そこでは子どもは調査の客体です。これに対して、子どもの手続代理人制度は、子どもの意見表明の実質的保障のための制度ですから、手続代理人は、あくまで子どもがひとりの主体として意見表明するのを援助することが役割です。そして、裁判所から「独立した」地位を有する者が子どもの手続代理人となります。
裁判所の中立性・公平性という観点から、調査官制度においては、調査官が子どもの意見形成に必要な情報提供を行ったり、子どもから質問・相談を受けることは想定されていませんが、手続代理人は、子どもの意見表明を援助するのが職責ですから、それに関わる質問や相談を受けることはむしろ本来的役割といえます。さらに、子どもが自らの意見を形成するために必要な情報(手続の現状や今後の見通しなど)を手続代理人が自由に提供でき、一方的でない、子どもと双方向のコミュニケーションをとることで、より最前の利益を反映させていくことが期待されます。
調査官調査の目的が、「子どもを調査の客体とし、意向を調査する」ものであることは理解でき、そのように調査を実施してきた調査官も多いでしょう。一方、私が知る調停、審判のなかでは、多くの調査官が、実際には「子どもの意向把握」だけにとどまらず、もちろん子どもの意見をコントロールするような言動は控えるが、子どもにとって最善の結果を導き出せるよう、積極的に子どもの身辺について調査し、意見を提出され、子どもの立場に立った家族の問題解決に寄与しておられます。優秀な方たちを揃えていると感じますし、この制度を申立費用のみで利用できるのはなかなか他国にない日本の裁判制度の良い点だと常々感じていました。ですから、子どもの心理、発達について専門的に学んできた調査官以上に、子どもの意向を聴取、把握することが弁護士に求めることの妥当性については多少疑問もあり、それよりも、調査官がより自由に(裁判所の紛争解決処理数や処理速度にとらわれず、担当ケース数をほどほどに)動けることが得策ではないかと思ったりもします。とはいえ、少年問題、夫婦・家族問題等に熱心に関わり、多くの子ども達を助けてこられた弁護士の先生方もたくさんいらっしゃるので、その方たちが子どもの安心につながる強力なサポーターとなってくださるならば、この代理人制度は有益です。
利用を想定されているケースは、面会交流事案、親権停止申立事案、離婚に伴う親権者指定事案などが考えられます。ある離婚当事者から「養育費を支払わなくなった別居実親に対して、子どもから請求するのに、この制度を利用できないか」と尋ねられました。そのとき、私自身、「お金のことに子どもを巻き込む」というイメージがわきました。それは大人同士で処理すべきではないか、夫婦間の問題ととらえるか、家族の問題つまりは子どもも関わる問題としてとらえるか…。夫婦間の争いでは、その葛藤があまりに高いばかりに子どもがないがしろにされてしまうことが少なくありませんが、一方で、家族のことだからと問題を子どもに直面させるときには、両親が子どもの年齢や性格をふまえて、境界線を自覚し、大人として紛争解決にあたる姿勢がより必要となってくるのでしょう。
そのほか、同法によって影響あることとして、「記録の閲覧」があります。たとえば、妻が離婚を希望して、家庭裁判所に調停を申し立てたとします。以前の家事審判法では、調停の申立書の写しを相手方(夫)に送るかどうかは、家庭裁判所の裁量に委ねられていました。実際には、その写しが送られることはほとんどなく、夫には、家庭裁判所から「夫婦関係調整調停申立事件」と記載された期日の呼び出し状が送られるだけでした。ですから、夫は、妻(申立人)から離婚の調停を申し立てられたのか、円満調整の調停を申し立ててられたのか、いったいどういう内容なのか、裁判所へ期日当日に行かないとわからないような状況です。
これが、家事事件手続法では、原則として調停の申立書を相手方に送付することとなりました(ただし、申立書を送付することによって相手方との感情的対立が激しくなるおそれがあるような場合には送付されません)。ですから、提出書類は相手方も読むことを念頭において記述する必要があります。また、その後の調停に関わる書類なども、相手方から閲覧謄写の申請があれば開示されます。
DVから避難している場合などには、申立書や提出書類(診断書や年金分割の情報通知書、子どもの学校関連)に避難先の居所が記載されていないか注意すること、また必要に応じて非開示の希望に関する申出書を提出したり、実際の居住地を記載せずに訴状が受け付けられることもありますので、申し立てる際に裁判所で相談される方が安心です
<参考資料>
・監修榊原富士子、著打越さく良(2012)『Q&A DV事件の実務』日本加除出版株式会社
・日弁連子どもの権利委員会(2013)『子どもの手続代理人マニュアル[改訂2版]』
(ニュースレター43号/2013年5月)