理事 桑田道子
2004年5月に発足した、Vi-Projectは、今春、10年目を迎えました。プロジェクトの始まりは、当NPOのサイトに設置したインターネット掲示板に、ある弁護士の方から「離婚後の親子の面会サポートをやってくれないか」との書き込みでした。
2001年、大学院生だった私は、SAJ(Stepfamily Association of Japan)というステップファミリー当事者支援団体の立ち上げに関わっていました。その設立イベントに際し、アメリカから当時のSAA(Stepfamily Association of America)代表マージョリー・エンゲル氏(Dr.Margorie Engel)を招へいしました。
彼女は「あなたは一人ではない。あなたが感じていることは、いろいろな国のステップファミリーの人々が感じていることと共通している」「ステップファミリーとして生活を始める最初の数年は、非常に混沌として大変なのはごく自然なこと」「初婚家族とは異なる、ステップファミリー特有の課題に気づいておくこと。そして、家族に関わる専門家も適切にサポートできるようその違いを認識しておくこと」など話され、初めてステップファミリーに特化した話を聴く、日本のステップファミリー達は非常に励まされました。
しかし、そのなかで聴衆は唯一「離れて暮らす親子の面会」についてエンゲル氏が話された時に抵抗を示しました。「なぜ会わせないといけないのか。養育費ももらっていないのに。元配偶者とは一切関わりたくない。関わるなら離婚した意味がない」というような声が多く挙げられました。
同年、ステップファミリーに関する初めての翻訳本が出版されましたが、その際も、原書には離婚後の交流について章が割かれていましたが、「日本の現状にはそぐわない、理解を得られないだろう」との判断でその多くが割愛されました。それほど、離婚後の面会は一般的でなかったといえます。けれどもSAJを通して多くのステップファミリーに会い、親の離婚を経験した子ども達と話すにつれ、離れて暮らす親への複雑な思いを抱いている子どもが少なくないことに気づきました。
そのような経緯のなか、前述の面会サポートを求める書き込みに遭遇し、「高葛藤の元夫婦間におけるやりとりや、生活を共にしていない親子がよりスムーズに交流できるために、第三者的サポートが役立つのではないか?何か出来ることはないか?」と同じ研究科の修了生3名でプロジェクトを発足させることになりました。
その後のプロジェクトの歩みは、これまでもニュースレターやホームページでご紹介してきたとおりですが、直接支援にあたり調査研究や準備段階を経て、2007年11月より非営利有償事業に着手し、現在は年間のべ100家族の面会や相談業務にあたっています。これまでには、私達が数回、面会の枠組みを決めるお手伝いをしただけでご自身たちで面会を続けていけるようになってサポートを卒業されたケース、子どもの成長にあわせて時間や頻度を変更させつつ面会を続けているケース、残念ながら途中で面会が履行できず再度調停で話し合われてから面会を再スタートされたり、一時中断されているケースなどあります。
結果的に、Vi-Projectの利用者はどなたも調停後に離婚された方ばかりとなり、その多くは、調停で面会の仕方について取り決めてこられます。たとえば「年●回・月▲回、◆時から■時まで」と決めていますが、その取り決めをいつまでも続けていくことはなかなかに困難です。子どものニーズにあわせて両親が柔軟に対応していけることが重要ですが、別居親も納得できる変更の仕方、代替策の取り方をどう工夫できるかが、サポートの要のようにも感じています。
また、この10年の間にずいぶんと社会も変化してきました。「離れて暮らす親子の面会」が初めて法律に明文化され、文言が離婚届に記載されるなど、面会が一般に浸透してきた表れでしょう。
そもそも私達は、面会が実施できるよう支援しているプロジェクトですから、子どもが安心して別居親と幸せな時間を過ごすことができるよう、離婚によって、子どもと父母双方とのつながりが断絶されることないように、と考えています。ただ、その一方で、別居親が執拗に面会(時に親権)を求め、長期にわたって争い続けたり、別居後も探偵を使って同居親子の生活を把握し続けていたり、子どもが一方の親に悪印象を持つよう他方の親が洗脳していると決めつけて争うようなケースが近年増加していることも実感しています。裁判所で争いながら、日が経つにつれ、同居親子が殻にこもっていくような様子を見ると、北風と太陽のエピソードが頭に浮かんだりもします。
離婚後も両親が子どもにとって益となるようどのように関わるかは各家族によって様々です。きょうだい構成や子どもの性質、同居年数によっても違い(親の離婚時に0~1歳だった子どもと、父母子みなで暮らしていた記憶がはっきりしている年齢で親が離婚した子どもでは、たいてい別居親の概念は異なる)、父母それぞれの価値観が如実に反映されることです。それゆえ、Vi-Projectもトランスファー(受け渡し)とコーディネイトとサポートの基本スタイルはあるものの、実際は各家族へオーダーメイド的なサポートとなり、マンパワー不足から問い合わせいただいてもお引き受けできないケースも多々あります。また、両親が「面倒なことはよその人にやってもらえばいい」とみなすようなサポートになってはいけないとも思っています。やはり、子どもにとって支えとなる親子のつながりがいかなるものか、最も現状に即した善策を見つけ出し、それに沿ってふるまえるのは両親だけだからです。私たちにできうることは、離婚時には後回しになってしまいがちな子どもの存在、子どもの気持ちに目を向けて、一緒に考えていきましょうと声をかけ続けることなのでしょう。その声に応え続けてくれる両親が、段々と肩の力が抜け、子どもも「パパもママもどっちも好き!」と気兼ねせず表現する姿を見せてくれることは私たちにとっても喜びです。
面会がたとえポピュラーな事柄になったとしても、「ただ、定期的に顔を合わしさえすれば良い」ものでは決してなく、子どもにとって支えとなる別居親子のつながりとは、この家族にとってどのようなスタイルであるか、丁寧に家族とコミュニケーションしあい、掴んでいきたいと思います。
これまでも多くの助言と共にVi-Projectを支え、育てていただき、ありがとうございます。今後とも、みなさまのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。
(ニュースレター44号/2013年8月)