理事長 村本邦子
9月20日土曜日の夜、ロンドン、ヒースロー空港に到着。スーツケースを引きずりながら、地下鉄を使って1時間ほどで、ケンジントンにあるホリディ・インにチェックインする。くたくたになりながらも、翌日からの冒険にワクワクしながら、眠りにつく。
初日は日曜で、どこの機関も休みのため、体調を整え、英会話のウォーミングアップをするために、少し観光らしいことをする(結局のところ、観光らしいことをしたのは、滞在中、これだけだった!)。今回は助成金を頂いて来ているため、遊ぶことに罪悪感があって、行き先は、フロイト・ミュージアムとする。
フロイトは、よくも悪くも、子ども時代のトラウマに光を当てた人だ。その生涯のほとんどをウィーンで暮らし、ナチの弾圧にも屈せず亡命を拒んだが、弟子たちの粘り強い説得に負け、最後の2年をここロンドンで閉じたのである。
ロンドンの街から少しはずれたフィンチレー・ロードという地下鉄の駅を降りると、あちこちに標識があって、矢印をたどりながら、閑静な高級住宅街に入った。ミュージアムとは、フロイトが住んでいた二階建ての家で、彼が使っていたカウチや書斎、書物や書簡などが展示してある。バルマリの『彫像の男』で有名になったフロイト収集のフィギュリンがところ狭しと並んでいて、すごい。見ているだけで強迫神経症になりそう。
ウィニコットのエッセイ集『はじまりは家族から』を買い、同じ並びにあるアンナ・フロイト・センター(3軒に分かれている)と同じく近くのタビストック・センターを見に行った。アンナ・フロイトもタビストックも子どもの機関だから訪問できたら良かったのだが、日曜で閉まっていたし、アポも取っていなかったので、今回は残念ながら門構えを写真に収めただけ。
22日月曜日、いよいよ施設訪問が始まる。この日は、ロンドン郊外ユーストンから列車で1時間ほど北へ走ったノーザンプトンにある被害者支援センターの訪問だった。この日の経験については、また、新理事より詳しい報告がなされると思うが、センターと連携している裁判所見学に連れて行ってもらった経験がおもしろかった。こじんまりとした明るい感じの建物で、子どもが証人として呼ばれた場合に待機する待合室やビデオリンクシステムに使う部屋など見せてもらった。
素人として面白かったのは、イギリスの裁判では、裁判官と法廷弁護士が昔ながらのマントとかつらを身にまとって登場する。試しに私たちも身にまとわせてもらったが、これはとってもユーモラス。子どもが法廷に立つ前にも、サポーターにつきそわれ、この衣装を着て裁判官の椅子に座ったりできるのだそうだ。まるで映画村でちょんまげをつけてみるような体験だが、きっと、子どもたちも少しリラックスできることだろう。夜は、被害者支援センターの方々が素敵な英国レストランに招待してくださった。この夜は、ワインとともに遅くまで語り合った。
23日火曜日は相当にハードな1日だった。朝早くロンドンに戻り、大阪の峰本弁護士のグループと合流して、ロンドン市内、カーテン・ロードに位置するNSPCCを見学。NSPCCとは National Society for the Prevention of Cruelty to Childrenの略だが、1884年、ビクトリア王朝時代、子どもへの残虐行為に反対し、子どもの福祉向上を目指して設立された。
120年も前のことだが、説明を聞きながら、確かに、その頃、イギリス、フランスで、子ども虐待が告発され、キャンペーンが張られていた事実を思い出す。フロイトがシャルコーのもとに留学した頃のことであり、マッソンによれば、フロイトは、これらの影響を受け、「誘惑理論」を導き出したのである。
NSPCCには現在、支部が180あり、テレフォン・サービス、啓発のための広告やキャンペーンなどを行っている。子ども時代に虐待を受けた人を支援するnapac(The National Association Abused in Childhood)という部署もできたという。電話相談の現場をのぞかせてもらったが、これは24時間365日開かれているフリーダイヤルで、年間184,000件のアクセスがあり、その7割に対応しているという。
トレーニングされたオペレーターが電話を受け、その重要度によって優先順位を決めるなどの工夫をしてきた。また、電話相談にかけてくるのは、その7割が大人であることから、Emailサービスを始め、子どもたちのコンタクトが増えたという。
いずれにせよ、ここは一回限りの危機対応窓口であり、地域の関連機関につなげるなど情報提供を行ったり、データベースを作成して他機関と連携するなどしているとのことだった。説明してくれたピーターさんに、私たちの関心の中心であるDVと子どもの虐待についての関連について質問したが、子どもの虐待の背後にある問題として、親のアルコール依存や薬物依存、DVなどとの関連を見ながらケアしており、Women’s Aidなどと連携しているとの答えだった。これは、下調べしていたとおりの返答で、新しい発見はなかった。このWomen’s Aidは、DV支援機関としては最大のものと思われるが、最終日に関連機関を訪問することができたので、続きの報告をお楽しみに!
23日は、この後、ニューハムのNewham Social Serviceを訪ね、そこで紹介されて、DV支援をしているNPOであるN.A.A.D.Vで話を聞き、さらに、ニューハムの警察にあるNewham Crisis Intervention Team(DVに特化したサービスを提供している)を訪ねた。一日で4つもの機関を訪ねるという充実した日だったが、紙面もなくなってきたので、今回は、このあたりで・・・。
(ニュースレター第5号/2003年11月)