理事長 村本邦子
英国視察の最終日9月25日は、Women’s Aidの紹介で、Southend Women's Aidのグループに属するDV支援機関を駆け足で見て回る。最初に訪ねたのが、DV被害を経験した女性や子どもたちへの支援を提供しているThe Dove Project。The Dove Projectは、24時間体制のホットライン、アポなしに女性が気軽に立ち寄ってお茶を飲み、スタッフと談話できるというドロップ・イン、地域へのアウトリーチ・サポート、トレーニング、被害女性へのカウンセリング・サービス、子どもへのサービスを提供している。私たちは、ドロップ・インのスペースで、紅茶とクッキーを頂きながら、The Dove Projectの中核スタッフであるBabsさんや他のスタッフの方々にお話を伺った。
もともと、ここは、1997年、Babsさんら3人が民間シェルターを立ち上げ、ボランティアで活動を始めたが、ほどなく基金と公的補助を受けて新しくシェルターができたため、そのスペースを活かして新しい支援体制を整えたそうだ。利用者はどんどん増え、現在は、ボランティア・スタッフが20名ほどいるという。2002年には5周年記念行事が行われると同時に、地域の学校で絵画コンクールが企画され、複数の優勝者の絵が、The Dove projectの内庭の壁に描かれたのだという。自分たちの描いた明るく楽しい絵で囲まれたスペースは、利用者である子どもや女性を和ませるに違いない。
カウンセラーであるBabsさんと話しているうちに互いにまったく同じ企画を持っていることがわかり、いっきょに興奮が高まった。まったくの偶然だが、Babsさんたちも、2004年の2月頃より、DV被害を受けた子どもと母親のグループ・プログラムを始めようとしていたのだ。イギリスでも子ども向けのプログラムはほとんど皆無に等しい状態で、カナダ・オンタリオのプログラムを取り寄せ、プログラムを作成中とのことだった。私たちは、今後の情報交換を約束して、まだまだ話したいことが山のようにある中、向かい側の Fledgelingsの方に案内された。
Fledgelingsはエセックス唯一のChild Contact Centerで、DVを経験した子どもの面会を支援している。子どもが面会するのは、DVによって会えなくなった親だったり、親戚だったりする。面会のサポートや監視つき面会を提供している。どの部屋にも楽しい絵が描かれ、「ジャングル」の部屋ではちょうど両親と乳児が面会中だった。同じ建物に属するSWANSが、子どもたちにカウンセリング・サービスも提供していた。箱庭やアートセラピーもやっているとのことだった。
時間がないので挨拶もそこそこに、私たちはタクシーに乗せられ、どのくらい走ったのか、Southend Women's Refuge(シェルター)に着く。シェルターと言っても、何とも洒落た家だ。
所長であるGabbiさんが「こんにちは」と日本語で迎えてくれたのにはびっくり。仕事で日本に住んでいたことがあるそうだ。シェルターに入ってきた子どもたちは、最初に、”Welcome Pack”という絵本をプレゼントされるそうで、私たちも頂く。ここには、シェルターの生活や安全のメッセージが入っており、子どもが自分について書き込んだり色をつけたりできるようになっている。怖い目にあって知らない所に連れてこられた子どもたちも、”Welcome Pack”をもらうことで暖かいメッセージと安心をもらうに違いない。シェルター内を案内してもらったのだが、ひとつの部屋で、ちょうど、母親が子どもの誕生パーティをしているところだった。子どもはダウン症だそうだが、2人は私達を笑顔で迎えてくれた。Gabbiさんが駅まで車で送ってくれたのだが、彼女もかつてDV被害を受け、子どもと一緒にここに逃げてきたのだそうだ。ああ、だからシェルターの住人たちと壁がないのだなと感じた。
私たちは大急ぎでロンドンに戻り、ヒースロー空港へ。みやげ物を買う間もなく、飛行機に跳び乗って、帰国した。あっという間の5日間だったが、とても充実した旅だった。実際、ここで得た数々のヒントを私たちのプログラムに反映させることになった。
(ニュースレター第5号/2003年11月)