活動会員 渡邉佳代
2月8日から3月14日までの毎週日曜日、6回連続で、かつてDV(ドメスティック・バイオレンス)被害を受けた小学生の子どもとそのお母さんを対象に「子どもとお母さんのための安心とつながりを育むプログラム」を京都市内で開催しました。このプログラムを終了するまでの約1年間の子プロの歩みをお伝えします。
今から1年半ほど前、当NPO法人のHPの掲示板に「DV被害を受けた子どもの支援がほしい」という、ある女性の方の書き込みから、「子どもプロジェクト」が生まれました。そして、2003年2月から理事長の村本を中心にして、大学院で臨床心理学を学ぶ学生や対人援助の現場で働いている専門家が集まり、月に1回の準備研究会を重ねてきました。研究会では、DV・虐待被害の影響やトラウマ理解のために、その支援について海外文献を読み合わせたり、プログラムの企画をそれぞれ出し合ったりしてきました。そして、前号までのニュースレターでもご報告しましたが、活動会員の安田がプログラムを企画し、三菱財団の助成金を受けたことで、DV被害を受けた母子を対象とする「子どもとお母さんのための安心とつながりを育むプログラム」を実施することになったのです。
■弁護士向けアンケート調査&インタビュー調査の実施
プログラムを実施するために、9月の英国視察を経て、10月には京阪神の弁護士(約3000名)を対象にアンケート調査とインタビュー調査を実施しました。法律事務所は、DV被害を受けた母親にとって、暴力被害や離婚調停を専門家に相談する場であり、母子の現状や支援のニーズを把握できるのではないかと考えたためです。また、DV被害の影響や支援のあり方について、司法関係者の問題意識をはかり、意識啓発につながることができたらという目的もありました。
アンケートでは、18名の弁護士から回答を寄せていただき、そのうち8名の弁護士が電話、または訪問インタビューを快く引き受けてくださいました。調査では、それぞれの弁護士がDV被害の支援に力を入れているものの、一般社会にはまだその認識が弱く、母子への支援や受け入れ体制が十分ではないために、危機感を抱いている方が多くいらっしゃいました。また、弁護士が関わっているのは依頼者である母親であるため、傷ついた子どもにまで支援の手が届きにくいこと、そして離婚後の母子に関わることが難しいため、新たな生活を踏み出し始めた母子への社会支援体制や心理的ケアの必要性を改めて強く感じました。
■ボランティア・スタッフ養成講座実施
プログラム実施に先駆け、ボランティア・スタッフを養成・募集するために、11月には京阪神で臨床心理士を育成している大学院(19大学)に「ボランティア・スタッフ養成講座」の案内を送り、12月6・7日の講座には、現場で活躍されている専門家や学生の17名が受講してくださいました。
講師として村本が「子どものトラウマと心理的影響」について、理事の冨永が「トラウマ動作法の理論と実践」「トラウマと転移・逆転移」について、いくの学園の斎藤恵美さんが「DV・虐待被害を受けた子どもの現状・母親の現状」について、そして支援の現場で活躍している活動会員の実践報告など、支援の理論と実践の両面について学び、大変充実した講座になりました。
■マスコミ各紙への広報、その反響
12月末から、カナダ・オンタリオのプログラムとアメリカのDAP(ミネアポリス家庭内虐待プロジェクト)を参考にしてプログラム作成を始めたのと同時に、マスコミを媒体としたプログラムの広報活動を行い、1月7日に朝日新聞、23日には京都新聞に案内が掲載されました(9ページ)。その際に、多くの問い合わせをいただき、こうした取り組みへの関心やニーズの高まりを改めて実感しました。
問い合わせでは直接の申し込み以外に「京都以外で開催の予定はあるか」「現在進行でDVを受けているが、こうした場合はどこで援助を受けたらいいか」「中・高校生の子ども向けプログラムも開催してほしい」「DV・暴力などの人権教育に取り組んでいるが、そういった話を教育の現場でしてもらえるか」「各地のDV自助グループについての情報を教えてほしい」など、当事者の方や多領域の援助者、各専門機関から声を寄せていただき、それぞれに必要とされている情報提供を行いました。
なかでも「幼い子どもの託児はありますか?」という当事者の問い合わせに、子どもを実家や近所、託児所などに預けられないという、かつてのDVの影響として社会のなかで孤立して生活されている様子に、心を痛めることもありました。今回のプログラムでは場所や部屋数などの関係から実現できなかったのですが、こうしたお母さんもプログラムに参加できるように、受け入れ体制や配慮について、今後、検討が必要な課題だと思います。
■プログラム実施
参加希望者には、現在の状況を詳しく把握するために、事前インタビューを設け、その後にようやく(!)プログラムの開催に至りました。プログラムには3組の母子(うち、きょうだい1組。男の子3名、女の子1名)が参加してくださいました。また、ボランティア・スタッフも学生、専門家総勢12名が子どもグループ、母親グループそれぞれに分かれてプログラムを行いました。日程やプログラム内容は下記の通りです。
子どもグループでは、ゲームやワークを通して自分や人を大切にすることを学び、お母さんグループでは、子どもの変化や成長を支えるための心理教育的なワークを中心にして進めました。当初は構造と非構造化グループの両方を考えていましたが、参加人数の関係から、親子ともに全日程を構造化することになり、スタッフもプログラムを進めながら、毎週、プログラムの検討と作成を繰り返して進めてきました。また、スタッフが役割分担をし、プログラム作成から実施まで、専門的な視点を持ちながら集団でグループを作り上げていくことは、子プロの取り組みとして初めてだったので、スタッフそれぞれに多くの気づきや変化があったように思います。
私自身、予備調査からプログラム実施に至る過程に関わらせていただき、多くの人との関わりからたくさんのことに気づき、成長したとともに今後の課題も見えてきました。そして何よりも、子プロの皆さんとともに、1年という歳月をかけて1つのプロジェクトを作り上げてきたことを嬉しく思います。また、子プロの歩みのなかで、私たちの活動の広がりから、様々な立場の人とつながりを築いてきたことを感慨深く思います。
以下、プログラム終了時のアンケートから、参加したお母さんとボランティア・スタッフの感想を紹介して結びとしたいと思います。
<参加したお母さんの声>
・自分の思い・考え方について気づくことが多かったし、毎週子どもと同じ時を過ごせたので、共通点が生まれたと思う。
・「自分自身に余裕を持つ」ということ。このままの自分でいいんだし、このままの子どもたちでいいんだということに気づきました。
・私自身、子どもも、ネガティブな表現は我慢して口にできなかったが、今回のプログラムで表出できるように、少し上手になったと思う。
<ボランティア・スタッフの声>
・子どもと接する時、どういうメッセージがプラスになるのかを考えるようになりました。伝える言葉一つ違うだけで、子どもにすっと受け入れてもらえるとプログラム中に実感できたことは大きな収穫です。
・子どもは思った以上に色々なことを考え、発言してくれると痛感した。子どもの力を信じ、感情表現などの心理教育を積極的に入れていくのは、とてもいいことだと思う。
・神戸のA少年の社会復帰や更生の課題、被害者遺族や社会感情など、今回の報道をみて、いろいろ感じさせられています。今夜は、犯罪をおかした少年を担当することがある裁判官や弁護士らとの勉強会があり、いろいろ語り合いました。裁判官によれば、離婚をめぐる家事調停では、 経験上、三分の一以上、DVがらみだそうです。少年の更生と、加害者と被害者との対話を通じた紛争解決をテーマにしている司法関係者らの取りくみも、始まっていますが、それは、今回おこなったDV家庭に生きる子どもケアの取り組みとも、つながることを感じました。また、大阪府の委託でおこなっている「DV加害者脱暴力援助プログラム」(大阪YWCA)の運営に関わっていて、それとも、関係してきます。被害者支援を最優先にしながら、暴力の予防と、加害者への対応(制裁と更生支援)など、コミュニティの中で、総合的な取り組みがもっと必要であることを感じます。
(ニュースレター第7号/2004年5月)