正会員 渡邉佳代
DV子どもプロジェクトでは、これまで現場のDV支援団体や派遣プログラムに参加された母子からの要望に加え、私たちがプログラムを継続する中で必要であると感じてきたプログラム内容の見直しを進めています。
毎月の派遣プログラムはオープン・グループであり、DV支援団体に入所中の母子や退所された母子が参加されるため、被害経験や回復段階、子どもの年齢層も異なり、入所中の単発参加や継続して参加される方といったように、対象者や人数、参加条件が毎回異なる中でのプログラム実施という難しさを感じてきました。
そのため、6月にはDV支援団体との情報共有を行い、今後の方向性を確認して、あらかじめ実施するプログラム内容を参加者に案内し、お母さんたちには主体的にプログラムを選んで参加してもらうことにしました。
お母さんプログラムでは、これまでも子どもの気になることや困っていることをフリートークし、ピアサポート的に進められてきましたが、その後はリラクセーションを目的として、体のモニタリングから始め、臨床動作法(肩こりほぐし)、タッピング・タッチ(体ほぐし)、呼吸法(ほっとリラックス)、アロマハンドマッサージのローテーションでプログラムを案内しています。
DV支援団体に入所したばかりで、まだ緊張の続くお母さんたちには、リラクセーションの時間を持つことは有効なのかという難しさもありますが、お母さんたちが子どもと離れた時間を持ち、少しでも楽しくホッとできる時間が持てることが、これからの子どもとの関わりでプラスとなればと願っています。
子どもグループでは、毎回の参加状況を見ながらの臨機応変なプログラム実施と、プログラムの幅を広げていくことが求められていると考え、単発プログラムの開発に向けて、毎月の派遣で新たなプログラムを取り入れながら試行錯誤しています。
6月の派遣プログラムでは、子どもグループは、天使の粘土と絵本の読みあいを行いました。7月はお休みでしたが、8月には、これまでも母子から希望のあった物作りを取り入れ、夏休みの思い出になればと、音の鳴る民芸おもちゃ「みんみんセミ」と「サブローゴマ」を作りました(子どもグループでの様子については、後の平井さんと福田さんの報告をご覧ください)。子どもグループも、お母さんグループも、手探りでの支援を模索しながら継続していますが、実際にできる範囲で考えられる最大限のことを行い、その1つ1つの積み重ねを大切にしていきたいと考えています。
このように、DV子どもプロジェクトでは単発プログラムの開発と支援の幅を広げるため、現在、①DV・虐待被害にあった子どもへの【単発プログラム集】作成の企画に取り組み始めています。これは、子どものリラクセーションとセルフ・エスティームの向上を主な目的とし、どんな人でも子どもに向けてプログラムを実施できるよう、子どもの状況、場所の広さ、必要な時間に分けたプログラムを作成していきます。
そのほか、私たちがこれまでプログラムを実施する中で得た知見や経験、出会ってきた母子や現場スタッフの声から、②DV被害にあった【母親向け】心理教育パンフレット、 ③DV・虐待被害にあった【子ども向け】心理教育小冊子、 ④DV・虐待被害にあった子どもを支援する【援助専門家向け】心理教育小冊子の作成に取り組んでいます。作成の目途としては2008年12月を目指し、必要な支援と情報が、必要とされている方々にお届けできるよう願っています。
● 派遣プログラム実施報告とプログラム開発への期待
活動会員 平井郁子
この度、8月の派遣プログラム、子どもグループのスタッフとして参加させていただきました。ワークを通して子どもたちの個々におけるエンパワーを感じつつも、集団への心理教育的アプローチの難しさを実感しました。子どもたちは常に誰かの関心を惹いておきたい欲求や情緒面の乱れ等、個々においての自己表現は多少見られましたが、日常的行動の背後に抱いているであろう恐れや怒り、恥、悲しみ、困惑についての表現は交流手段として、非言語的手段を必要とするツール選択が重要と感じました。実際に遊戯療法的関わりが安全な空間として自由な自己表現を促していると実感しています。
個々のニーズの見極めとして自由な表現を引き出す関わりが求められる一方、派遣プログラムでは、子どもたちにとっても親以外の大人との関係により適応性を持つ重要な機会と考えられます。また個々の特徴をつかむ中で母子関係へのサポート視点として母親にフィードバックできる貴重な時空間と考えられます。家族関係を深めるスキルもこうした母子共に並行支援できる体制が有効的と実感しました。
また長期的支援の1つとして認知行動療法的介入「怒りのコントロールスキル」など問題行動の改善等、個々にどのような問題を形成してきたのか個別性を重視し、問題や障害の学習メカニズムに注目するアプローチ方法の有効性に関心があります。この認知行動療法をベースにした支援スキルは、子どもの心の問題にも効果的介入方法として支援の幅が広げられることを期待し自らも探求していきたいと思っています。
経済的負担の少ない治療的アプローチ体制が各支援団体で活用され、社会、環境変化に伴う適応能力の骨子となり個々の自己実現へのエンパワメントとなることを期待し、援助者側の人間としての資質向上と、自己錬磨を怠ることなく臨床現場を大切にしていきたいと思っています
●今後考えていきたいこと―子どもプログラム参加を通して―
活動会員 福田央子
私は子どもグループのプログラムに関わることが多いのですが、8月は特にたくさんの子どもの参加があり、プログラムを行うスペースの確保や、それぞれが様々な段階にある子どもたちが、1つの流れに沿ったプログラムに取り組むことの難しさなどを改めて感じました。子どもたち1人1人のペースに合わせられたら、と強く感じました。プログラム後の振り返りの中では、子どもグループに関わったスタッフ皆がもどかしさや、やりきれない想いを感じているように思いました。また、親グループと子どもグループが一時分離しきれなくなってしまうということもありました。これは、お母さんたちが心を落ち着けられる場所作りのために、一番避けなくてはいけないことだったと思います。
限られた枠組みだからこそ、よりたくさんの安心を子どもたちに感じてもらうために欠かせないのが、お母さんの安心と笑顔だと思います。お母さんが、子どもたちに安心感を与え、エンパワーができるためには、お母さん自身の心が安心できなくてはならない。だからこそ、母親向けプログラムは、子どもたちにとっても非常に重要です。
お母さんにとって、子どもグループは安心して子どもを任せられる場であり、親グループは心を落ち着けて自分や家族のことを考えられる場であって欲しいと思います。そのためには今後、空間の使い方や場作りを改めて考えていく必要があるのではないかと感じました。
子どもグループについては、お母さんの姿が見えないことが子どもに与える不安や、その不安の段階に応じた対処の仕方も考えていく必要があるかもしれません。場合によっては、子どもが少しでも自分のしたいように行動できる場であるために、子どもが「プログラムに参加しない」という選択肢を選べるようにすることも考えねばならないのではと思いました(そのためには十分なスタッフ数が必要ですが)。また、現在子プロでは、新しい単発プログラム開発の取り組みが行われています。この活動が、より子どもたちの選択肢を増やすことにつながって欲しいと考えています。
○●○DV子どもプロジェクトへのおたより○●○
DV子どもプロジェクトに、活動会員の田中るみ子さんから、おたよりをいただきましたのでご紹介します。田中さんはDV子プロに長く関わってくださり、派遣プログラムでも積極的に取り組み、今年の3月にはNPO法人児童虐待防止協会の第135回 Child Abuse研究会で、DV子プロの取り組みを渡邉とともに発表してくださいました。
DV子プロでは、「現場に即した支援は何か?どんなことに力になれるのか?」を考え続けてきました。田中さんのおたよりから、現場で必要とされていることを考え、実践していく姿勢や、DV子プロでの活動、出会いやつながりを大切にしてくださっていたことを感じ、とても嬉しく思いました。私たちが実際に現場でできることは限られ、過酷な状況にある母子や現場のスタッフにとっては微力かもしれませんが、その小さな支援や出会いとつながりを大切に育んでいきたいと改めて感じました。
田中さんが遠くに行かれることはとても寂しいですが、新たな旅立ちを応援しています!
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DV子プロのみなさま
約3年前に研修会に参加させていただいたことがきっかけとなり、以後、DV子プロの活動に加わらせていただいておりました。今年度に入ってからは大学での研究、職場での研修等が忙しくなりなかなか活動に参加することができず申し訳ございませんでした。
実は急な話ですが、来月(10月)より福島県にて就職することが決まりましたので、今後DV子プロの活動に参加させていただくことが難しくなりました。途中での退会となることをお許しください。すみません。今後は、みなさんのご活躍を、遠く離れてはしまいますが福島の地から応援させていただきたいと思っております。
DV子プロの活動では、何が現場で必要とされているかを考え・学び、実践していくというスタンスで、多くのことを学ばせていただきました。臨床の世界に入って間もない状態でのスタートでしたので、みなさまには色々とご迷惑をおかけしたことと思います。いろいろとご指導いただきまして、本当にありがとうございました。臨床の現場で日々ご活躍されている村本先生をはじめ先輩方との出会い、また同じ志を持つ院生さんや仲間との出会いや活動は、貴重な経験となりました。感謝いたしております。
短い間でしたが、3年間、本当にありがとうございました。最後になりましたが、みなさまのさらなるご活躍、そしてDV子プロの発展をお祈りしております。ありがとうございました。
活動会員 田中るみ子
(ニュースレター25号/2008年11月)