副理事長 西 順子
2009年3月末に、立命館大学法科大学院・平成19・20年度文部科学省推進プログラム「地域密着型司法臨床の模索と拡充」事業の一環として、『女性の安全と健康のためのガイドブック』を発行しました。
私は日頃、カウンセラーとして、子ども時代の虐待、性被害、DVなど、暴力被害に遭った女性や子どもと関わっています。暴力の影響から回復し、自分らしく人生を築いていけるお手伝いができればという思いで、この10数年カウンセリングに関わってきましたが、来談して下さった女性の役に立てるのに、どうすればいいのか、何が必要かと、考え、学びながらの毎日です。一方で、地域の女性センターや産婦人科でのカウンセリングのなかで、DVが女性の日常生活に浸透している現実と直面し、カウンセリングという形での援助の限界を感じてきました。
DVの法的制度、援助の社会システムが整い、女性の安全を守れる社会的枠組みが整ってきたことは、大きな進歩です。しかし、DV夫から逃げる・別れる決心をするにはとても時間がかかりますし、助けを求めるまでにも時間がかかります。
パートナーの暴力に苦しみ、恐怖に怯えていても、パートナーと別れて暮らしていくことに希望が見いだせず、「それなら、このままのほうがまだましだ」と思う方、「どうすれば変わってくれるのか」とパートナーが暴力をやめることに期待を持ち続ける方など、葛藤を抱えている方がとても多いことを知りました。その背景には、この社会で女性が仕事もち一人で食べていくこと、特に子どもを育てながら食べていくことの現実の厳しさもあります。また、自分を幸せにすると言ってくれた人、はじめて自分の気持ちをわかってくれた人、そう信じられると思った人から裏切られるという悲しみや喪失感が大きいこともあります。そのような女性の気持ちに寄り添いながらも、暴力が心身の健康、人生、子どもにも影響を与えることを思うと痛みを感じ、私自身も葛藤してしまいます。
こうした経験の中で、本人の意思・自己決定を尊重しながらも、<あなた自身を大切にしよう>というメッセージや情報を届けたいと思うようになりました。自分自身の身体と心を大切にしよう、そして人とのつながりを保っていこう、人々とつながるなかで選択肢は広がってくはずと。そのために、一緒に考えていけるような冊子を作りたいと思っていたところ、今回、助成金の支援を頂くことができました。日頃臨床で感じてきた思いや情報を、賛同する仲間と共に、一つの形にできたことを嬉しく思います。まだまだ不十分な点はありますが、この冊子が女性自身の安全と健康を考えていくために、少しでも役に立つことができれば嬉しいです。
暴力は、私たちの生きている土壌に浸透しています。土壌を変えるのはとても難しいことですが、当NPOの活動が、一つの種となって希望へとつながっていければ・・と願っています。
(ニュースレター27号/2009年5月)