正会員 渡邉佳代
この春には、子プロがこれまで継続して実施してきたプログラムの意義と、今後の展開について、改めて見直す機会になりました。4月には、これまで月1回、プログラムを継続してきたDV支援団体によって、お母さん方にプログラムのニーズ聞き取り会を実施し、子プロでは子どもグループを担当して、新聞ポイポイ(新聞紙を破って丸め、的に当てるゲーム)と絵本の読みあいを行いました。
継続して参加してこられた親子が、地域でのつながりを持ち始め、DV支援団体でも自発的なグループが派生してきた経緯を受けて、昨年12月のクリスマス会以降、プログラムをお休みしていましたが、久しぶりのプログラムに、親子6組(子ども8名)が参加してくださいました。子どもたちは、しばらく見ない間にすっかり大人びていて、以前は自己紹介をする時にも涙ぐんでしまう子が、しっかり自分の意見を言ってきたり、自分なりの仕方でプログラムに参加している子どもたちの姿に、成長と逞しささえ感じました。
聞き取りをしてくださったDV支援団体のスタッフからは、1人ひとりがプログラムを自分に位置づけていて、とても大切に感じていらっしゃるのが伝わったと、フィードバックをいただきました。プログラムの頻度に関しても、月に1回プログラムに参加することが、各自に根づいているとのこと。「お母さんたちにとって、こんなにもプログラムの意義があったなんて嬉しい!」と、プログラムに対して、さらに期待を寄せていただきました。
お母さん方の今後のニーズのなかでも印象的だったのは、親子でのおでかけや親子キャンプの企画があがったことです。DV被害から逃げて来られた親子が、見知らぬ土地で生活を始めることへの負担は計り知れません。安心できるつながりの中で、親子の体験を広げ、深めていくことができる機会が望まれるでしょう。改めてDV被害にあった親子への継続的・長期的支援と、親子が安心して過ごせる場を提供する支援システム作りが、今後もコミュニティの課題となることを感じました。現在の子プロのスタッフ体制から、まずはできることから少しずつプログラムに取り入れ、新たな展開を図っていこうと模索しています。親子でのおでかけや食事会など、今後は助成金申請など行い、いずれ実施できたら…と楽しみにしています!
5月より、早速、親子へのプログラムを再開しました。5月、子どもグループでは、風船を使った遊びを通して学ぶリラックス呼吸法を、母親グループではアロマ・ハンドマッサージを行いました。いつもの会場では、匂いが残るアロマを使用することができないのですが、DV支援団体のご配慮により、団体の事務所をお借りして実施することができました。6月には、子どもグループでは紙コップを使った工作「不思議な円盤UFO」とヨガを、母親グループでは、絵本の読みあいとリラックス呼吸法を行いました。じめじめした梅雨の季節でしたが、親子ともにホッとリラックスし、また元気いっぱいからだを動かして、楽しんでくださったようでした。
今後の展開として、春に新規単発プログラムを2回実施したDV支援施設にて、夏に再び単発プログラムを2回実施することが決まっています。子プロでは、より安定したスタッフ体制とプログラム運営の課題を抱えてきましたが、今年度の子プロの若手スタッフは、プログラム企画からファシリテートまで積極的に学び、めきめき力をつけてくれています。今後の展開をお楽しみに!
今回は、長く子どもグループのファシリテートをしてくれている小川絵美さんより、原稿を寄せていただきましたので、次に紹介します。
○●これまでの活動を振り返って●○
活動会員 小川絵美
■はじめに
私がDV子どもプロジェクト(以下子プロとします)に参加するようになって、丸3年が経ちました。その間この子プロは、私自身としてはもちろん、参加する母子にとっても様々なものを「はぐくむ」場として存在していたように思います。それを今回は①子プロで学んだこと、②子プロの意義としてご紹介したいと思います。
■子プロで学んだこと
私にとって子プロでの活動は、最初でこそまさにボランティアという感覚で活動していました。しかし、スタッフとして活動しながら諸先輩方のファシリをモデル学習し、コファシリを経て、子どもグループのファシリを担当するようになり、子プロは臨床心理士として活動する「臨床の現場」という1つのフィールドになっていきました。なぜなら、継続して参加すると様々な関係性が生まれ、さらにその関係性が深化していくからです。そして、私自身がそのプロセスの中でスタッフや子どもたちと相互作用しあい、時にはプロセスを観察していくことがこのプログラムの醍醐味となりました。
しかし、いくら諸先輩方のようなファシリテーターになりたいと思っても、私が同じようにやるのはどうやっても難しいです。渡邉さんからのフィードバックを通して、スキル面を学んだり、自分自身を振り返ったりすることで、私なりのファシリテーター像を積み上げていきました。そして、3年経ってようやく新しいところからの派遣のオファーがあった時、私は初めてプログラム・デザインをしました。それは臨床の現場でいう「見立て」に近いものがあったかもしれません。しかし、コミュニケーションは「ナマモノ」だからこそ、その通りにいくわけもなく、1回1回は大事ですが、力を入れすぎないということも学びました。
また、スタッフ間での連携をうまく行うためには、スタッフというグループに対してもファシリテートしたり、アイスブレイクをしたりして、場を温める方が有効だと感じました。ファシリとコファシリのコンビネーションも、電車の中やメールのやりとりをするだけでも当日の流れがずいぶんと楽になります。何より、スタッフへの信頼はスタッフのモチベーションアップにつながります。プログラムに参加する子どもだけでなく、スタッフに対しても目配りをすることは、ファシリテーターとしてとても大切だと思いました。
■子プロの意義
このプログラムの頻度は月に1回で、心理的援助としては少ないと思われるかもしれませんが、3年という継続性がそれをカバーしました。また、初期のころからずっと参加してくださっている母子がいるというところにも、プログラムの価値が見出せるかと思います。また、グループという単位も頻度を補う要素になったと考えられます。結果として、子プロメンバーのグループ・ダイナミクスを追っていくことになりました。
グループの力というのは本当にすごいです。時間はかかりましたが、緊張の高かった子どもたちが、プログラムの中で体を動かし、声をあげて笑い、時にケンカもしながら、お互いを思いやる姿勢を見せるようになるのを間近で見ていると、本当に子どもたちの力を感じずにはいられません。また、月に1回というフォーマルなセッティングで出会っていたお母さんや子どもたちが関係性を深めるにつれ、インフォーマルなグループを当人たちで作っていきました。先ほどは臨床心理士としてのフィールドなどと偉そうなことを書きましたが、単純に「次もこの子たちに会いたい」という気持ちのほうが勝っていたのかもしれません(逆転移が起こっていたと考えられますね…)。これはこれで、ボランティアのいいところと言えるでしょうか。
■今後の展開
先日、プログラムに参加してくれているお母さん方に現段階でのプログラム内容についてなどの聞き取りをしたところ、思った以上にお母さんたちが必要性を感じてくれていることが明らかになり、今までやってきたことを評価していただく貴重な機会になりました。これだけニーズがあるのなら、今後も私たちスタッフが継続的にかかわっていけるように人数の確保は必須と思われます。また、お母さんの中には宿泊キャンプや外出プログラムなど実施してほしい企画もあるようです。これらについては、今後助成金を確保するなどして、子プロの新しい取り組みとして前向きに進めていきたいと思います。
(ニュースレター32号/2010年8月)