正会員 渡邉佳代
今年も暑かったですね。DV子プロでは7~8月をいつもの継続団体で、そして9月は単発プログラムとして2回、DV支援施設で派遣プログラムを行いました。プログラムの内容は、以下の表の通りです。
いつもの継続団体では、シェルター退所後に継続して参加してくれる親子が多く、比較的プログラムにも慣れ、生活が安定していることが特徴としてあります。団体の子どもたちは、主体性や表現力の回復からも、子どもたち自身がプログラムをリードしてくれる力もありますが、DV支援施設は単発プログラムであることや、現在親子が生活している施設に出向いて、親子の生活空間の中でプログラムを行うことから、プログラムへの導入の仕方やスタッフの声かけの仕方、職員さんとの連携の工夫など、たくさんの学びがありました。特に、これまで過酷な状況の中、暴力によって支配・コントロールされてきた子どもの中には、集団の中で自由に遊ぶ・発言するということが難しいことがあります(子どもの発達段階にもよりますが)。子どもたちが参加しやすいように、ウェルカムの雰囲気を作ったり、パペットを用いたり、手をマイクに見立てて発言を促したり、工夫して積極的に子どもたちを巻き込み、楽しい時間と空間を作っていくためのアイデアを、スタッフで共有する機会になりました。
当NPO理事である兵庫教育大学の冨永良喜先生の『かばくんのきもち』からアイデアをいただき、子プロの心理教育劇に『モンキチくんのきもち』があります。両親のDVに傷ついたモンキチくんと、優しいフクロウさんの話の中に、つらいことを乗り越える3つの魔法「安心・つながり・表現」がキーワードになっています。これは、子プロが毎回のプログラムの中でも大切にしてきたものです。親子それぞれにとって、プログラムが「安心・つながり・表現」の場であれるよう、これからもスタッフのスキルアップとプログラムへの工夫を重ねていきたいものです。今回は、子どもグループ担当の小川絵美さんより、子プロで大切にしてきた「安心・つながり・表現」について、原稿を寄せていただきましたので、次に紹介します。
○●DV子どもプロジェクトが大切にしていること
~安心・つながり・表現~●○
活動会員 小川絵美
DV子プロの活動に参加していると、思いがけないところで子どもたちの回復と成長を垣間見ることも少なくありません。それは時として「いや!」というファシリテーターの提案に対する強い抵抗だったり、否定的な感情の表明だったりします。ですが、そんな時こそ、私は子プロに参加してきてよかったなと思います。やりとりこそご紹介できませんが、ぱっとそのやりとりを聞いただけでは、人によっては「かかわりにくそうな子」と思う人もいるかもしれません。私はそういう場面に遭遇した時、大げさな言い方かもしれませんが、驚き感動すら覚えます。子プロに参加してくれている子どものことを理解していなかったら、「困ったな」と思う状況であっても、「きちんと自分の気持ちを表現できるようになったんだね」とうれしくてニコニコしてしまいます。子プロに参加してくれている子どもたちは、知らず知らずのうちに色々な事情によってそういったのびのびとした「表現」を制限されていたかもしれません。でも、子プロの中で「してはいけないこと」は「自分やおともだち、スタッフを傷つけない」「暴力はふるわない」ことです。それ以外は子どもの表現について概ね「OK」なのです。だから、子どもたちは「安心」してプログラムの中でスタッフやおともだちと「つながり」「表現」することができるようになるのだと思います。月に1回のプログラムなので、縦断的に経過を追っていくにはなかなか時間がかかりますが、子プロでの活動期間が長くなるにつれ、確実に子どもたちの成長や回復を知ることができるのを実感しています。今回は、子どもたちの回復過程に寄り添うために子プロが徹底している「安心・つながり・表現」を中心にプログラムの紹介をしたいと思います。
■子どもたちにとって、なぜ「安心・つながり・表現」が必要なのか
臨床心理学においては、人の表現方法には3段階あると考えられています。1つは、不登校の子どもに見られるような、毎朝学校に行く時に限っておなかが痛くなるといった「身体化」、もう1つは家庭環境の複雑な子どもが学校で堂々と喫煙をしたりといった「行動化」があります。これらは、自分の気持ちを意識化できないために、身体や行動を通して表現しますが、3つめの「言語化」は言葉通り、自分の気持ちを言葉で表現することであり、もっとも適応的と言われています。
子プロに参加する子どもたちは、子どもにとって最も大切な「安心感」を継続的に得る体験がほかの子どもに比べると少なかったと考えられます。ここからは私のイメージの話になるので、臨床心理学的には間違っているところもあるかもしれませんが、子どもはお母さんが大好きなので、子プロに参加する子どももお母さんを心配させないようにがんばっている子たちばかりです。ですから、子どもらしいわがままも甘えもなかなか見せないようにしているので、その分、子どもエネルギーが蓄積されています。まずは子どもたちが安心してその子どもエネルギーを発散できる場が必要になります。子プロでは様々な「表現遊び」を取り入れています。具体的には工作、粘土、ヨガなどです。その遊びを通して子どもたちは発散することの気持ちよさを感じると同時に、「安心」を感じることができます。また、一緒に絵本を読みあって笑ったり、ゲームで助け合ったり、時にはぶつかりあったり、グループメンバーとプログラムを共有することで、私たちの間に「つながり」ができていきます。こういった「安心」して遊ぶことを繰り返して「つながり」あうことで、遊び(プログラム)の中での「表現」が少しずつ変化していきます。臨床心理学でいう3つの表現方法の段階をきちんと踏んで回復や成長に向かっているのを実際に目の当りにしてきました。だからこそ、「安心・つながり・表現」という枠組みは徹底して守られるべきものであり、これらを念頭にプログラムを組み立てると、子どもはのびのびと体と心を解放することができるのです。
■「安心・つながり・表現」を育むためのスタッフのあり方
子プロのプログラムはグループワークなので、子どももスタッフもグループを構成する要素です。それぞれの個性がうまい具合に作用しあうとグループは活性化するし、歯車がかみあわない時はグループの緊張は高まります。たとえグループの緊張が高まっても、それはあながち悪いことでもないので、その緊張状態に自らを委ねたらいいと思います。子プロはグループなので、かかわり続けることのほうが大事です。子どもに関心を寄せてかかわり続けることは、自然と「安心」を提供することになると思います。子どもを不安にさせることは何よりも避けなければならないことですが、子どもの気持ちや自分の気持ち、グループの状態などあらゆるものを「なかったこと」にしたり「無視」するのでなければ、失敗はそうそう起こるものではないのかなと考えています。なぜなら、子プロのプログラムは生のコミュニケーション場面だからです。紙面の都合上、グループについては「援助者のためのグループの理論と実践」を一読することをおススメしますが、子どもたちが「安心」して、グループメンバーと「つながり」、のびのびとした「表現」をするためには、私たちスタッフ自身がそのグループやプログラムを面白がって参加することが一番だと思います。時に子どもがのびのびと「表現」するためにスタッフのほうからしかけを用意することも必要なことがあるのかなと思います。
(ニュースレター33号/2010年11月)