2011年7~9月の活動報告
正会員 渡邉佳代
DV子どもプロジェクトでは、7月に毎月実施している継続団体で、8月にDV支援施設で派遣プログラムを実施しました。9月には、講師に金山好美先生(奈良YMCA、立命館大学心理・教育相談センター)をお招きし、スタッフ研修会を行いました。それぞれの活動内容は、以下の表の通りです。
毎月1回、派遣プログラムを行ってきた継続団体では、これまでにもご報告してきたように、参加者の状況に合わせて数ヶ月に1回のペースで派遣プログラムを行っていくことになりました。試験的に8~9月をお休みにし、10月に派遣プログラムを実施して、その後に派遣のペースを検討していく予定です。7月に参加してくれた子どもには、「10月に絶対に会おうね!」「しばらく会えないのは寂しいけど、10月に待っているからね!」と約束しました。
8月には、今年度1回目のDV支援施設での派遣プログラムを行いました。施設への派遣は、2010年3月からスタートし、年に5回程度、断続的にプログラムを実施しています。施設に入所中の親子が対象で、参加する子どもも乳幼児から小学校高学年、ときには中学生とさまざまです。毎回、参加する子どもたちは異なりますが、いつも風船呼吸法は大人気!子どもたちも、施設職員さんからプログラムを聞いて、「今日は風船がもらえるねん!」「風船でバスケしたい!」と楽しみに参加してくれます。
今回も、たくさんの子どもたちが参加してくれ、たくさんの大人たちに囲まれて、体いっぱいに遊びました。初めは小さな子どものお世話をしていたお兄ちゃん、お姉ちゃんたちも、最後にはスタッフに甘えたり、たくさんの笑顔が見られたり…プログラムを通して、子どもが子どもらしく、伸び伸びと「やってみたい!」「一緒に遊びたい!」「甘えたい!」と思える気持ちがムクムク湧いてくる様子を目の当たりにして、私たちもエンパワーされました!
9月には、スタッフ研修会を行いました。子プロは2002年12月に設立し、当初は時期限定の来所プログラムや派遣プログラムを行っていましたが、2007年8月からは毎月1~2回の派遣プログラムを行ってきました。この4年の間、毎月のプログラムを回すのに精一杯で、なかなかスタッフ研修会を持てずにいたのですが、久しぶりに研修会を企画し、初期の子プロが定期的に研修会を重ね、スタッフ同士の親密さを温めてきた頃を思い出しました。
金山先生の講義の前に、渡邉が今春に、子プロのスタッフに協力していただいた子プロアンケートのまとめと報告を行いました。このアンケートは、子プロスタッフがプログラムを親子に提供する責任を持ち、スタッフ同士がより良くつながっていくことを目的とし、コミュニティ心理学用語である「コミュニティ感覚」をキーワードにしています。
コミュニティ感覚はさまざまに定義されていますが、私は「メンバーが主体的につながって互いに影響し合い、情緒的絆を持った共同体の感覚」と定義します。それは、援助する/される関係を分断させるのではなく、「市民感覚」や「人間性」に基づいた「同じコミュニティに生きる一員である」といった感覚で、「互恵的・情緒的絆を持つ場や関係性」と言えるでしょう。
暴力によるトラウマは、人とのつながりを破壊して人を無力化しますが、人はまた人との温かいつながりや関わりを通して回復していきます。子プロでは、つながりを持ちにくい傾向にある親子とともに、温かい関わりや楽しむひと時を通して、人とのつながりを安全に創っていくという、親子のコミュニティ感覚を高める支援を行ってきました。
DV・虐待被害にあった親子のコミュニティ感覚を高めるには、ボランティア自らがより良い関係性をコミュニティの中に保ちながら親子と関わり合う必要があり、ボランティア自身にも高いコミュニティ感覚が求められます。こうした問題意識を持ち、今春にアンケートを行ったところ、「温かい先輩のモデル、関わり、サポート」がメンバーのコミュニティ感覚に働きかけ、さらに後輩のサポートに関わることで、自らのコミュニティ感覚の向上につながること、また、親子やスタッフ同士での関わり合いの体験を通して向上したコミュニティ感覚は、臨床家としての資質向上にもつながることが分かりました(渡邉佳代(2011)「ボランティアの専門性とコミュニティ感覚の変容―DV子どもプロジェクトの活動から」『女性ライフサイクル研究第21号―コミュニティ・エンパワメント~安心とつながりをめざして』)。
キーワードは「つなぐ、つながる」!スタッフと子どもがつながる、子どもと子どもをつなぐ、親と子どもをつなぐ、スタッフとスタッフがつながる…より良くつながることが、トラウマへの最大の予防となるでしょう。子プロのプログラムは、積極的に上記の関係性を作り、広げていくことを目的とすることをメンバーとともに共有しました。
渡邉の報告を受けて、金山先生の研修では、子どもが子どもらしくあるために、子どものナチュラル(自然)な状態を引き出し、一緒にプログラムを楽しむためには、どんなことが必要か、ワークを通して共有しました。「グループで関わることの目的(ねらい)」を十分に計画し、子どもの「したい!」「やってみたい!」「人とつながりたい!」をサポートする関わりや、皆で何かをするメリットを示すこと、スタッフ自身がプログラムの楽しさを知っていることが大切であることを再確認しました。
ワークは、1対1の関係づくり⇒参加者間の関係づくり⇒目的のプログラムをグループで取り組む…の流れに沿い、関係性を広げながらプログラムの目的を達成する手法を体験しました。まず、自己紹介のワークで1対1の関係性を作り、ペアでの地蔵倒し(背中を相手に預けて寄りかかる)、1人をメンバー全体で囲んでの地蔵倒し、最後にメンバー全体でバックフライング(高いところから後ろ向きに倒れ、メンバー全体で受け止める)を行いました。「やってみたいけど不安」な気持ちに、どんなサポートが力になるのか…改めて、周囲のスタッフが声をあげること、「大丈夫!やってみよう!」という雰囲気を全体で作っていくことの大切さを痛感しました。
バックフライングは、トラウマサバイバーの回復プログラムでも行われていることを以前に聞き、いつか体験してみたいなぁと思っていましたが、実際に高いところから後ろ向きに倒れるというのは足がすくむ思い…。でも、スタッフ皆から「佳代さんのこと、ちゃんと受け止めるよ!」「大丈夫やで!」と声をかけられて、えい!とチャレンジすることができました!やっぱり私は子プロスタッフを信頼しているんだなぁと、しみじみ感じる感動の体験でした!
最後に、体験したバックフライングを振り返り、ファシリ、コファシリ、補助スタッフそれぞれの役割から、子どもへのサポートや声かけを具体的に考えていくために、課題分析の手法を学びました。風船呼吸法など、頻繁に行うプログラムを取り上げて、今後の研修やシェアリングでもやってみると、スタッフのスキルアップにもつながりそうです。今回の研修会で得たものは、何よりもスタッフ同士のつながりを深め、メンバーのコミュニティ感覚がますます高まったことでしょうか。金山先生、ありがとうございました!
(ニュースレター37号/2011年11月)