理事 渡邉佳代
2012年10月~12月の活動報告
~より良いチーム作りを目指して~
DV子どもプロジェクトでは、2012年10月~12月までに以下の派遣プログラムを実施しました。この1年のプログラムには、団体では子ども17名(計7回実施、延べ数)、施設では子ども66名、母親28名(計7回実施、延べ数)の親子が参加してくださいました!
10月21日には、当NPOの第10回年次大会において、子プロから田丸、中間(実習生)、森﨑、渡邉の4名で10年間の子プロの活動を振り返り、発表を行いました。
この数年、私が子プロで力を入れてきたことは、より良いチーム作り、すなわち対人援助組織のマネジメントと援助者同士の連携の構築です。援助者対象の研修や講座に出向くと、援助者同士の関係づくりや連携の難しさについて耳にすることが少なくありません。私自身、FLCや子プロの活動を通して、先輩スタッフから後輩スタッフに知恵と経験を受け渡していくこと、そして温かいサポートが後輩スタッフを育てて、より良いチームワークを構築していくことを体験してきました。そして、スタッフ同士の良い関係が育まれると、個々の支援の質が向上することに気づいてきました。
子プロでも、先輩からの知恵と経験の受け渡しと、メンバー間の情緒的サポート形成の仕組みをどう作っていくかを試行錯誤してきました。例えば、活動の目的(軸)を共有する研修会の実施、課題分析の作成、プログラム評価、バックスタッフの導入などです。これらの取り組みを通して、メンバーの「つなぐ・つながる」力が向上し、より良いチームワークを形成してきたことを実感しています。
チームワーク形成の取り組みを振り返り、今回の発表で明らかにしたいことは2つのこと。1つ目は、子プロで大切にしてきた親子との関わりの軸である「安心・つながり・表現」、スタッフ集団の軸である「つなぐ・つながる」という2本の軸から、スタッフが感じてきたことは何か。2つ目は、コミュニティやチームワークの形成のプロセスで、スタッフが子プロに愛着を持ち、子プロの活動を大切にしてきたのは、どんな要因があったのか。この2つを振り返り、今後もより良いチーム作りを進めていくためのヒントを得ることを目的としました。
1ヶ月前から発表メンバーと活動の振り返りを共有して準備を進め、当日は渡邉が子プロの10年の活動をまとめて発表し、田丸・中間が「安心・つながり・表現」をキーワードとしたパペット劇を行い、最後に発表メンバーでの座談会を行いました。私自身、子プロでのチーム作りは、自分自身も「安心できる環境作り」からスタートし、子プロという場を大切に思う仲間を増やしてきたプロセスであったことに気づきました。親子やメンバーとともに学び合い、作り合う互恵関係の中でチームが立ち上がってきたことは、スタッフが子プロの活動を大切にする要因となってきたことを感じました。当日はフロアからも温かいフィードバックをいただき、改めて子プロの良さを実感した1日でした!
●年次大会での「座談会」に参加して~ 活動会員 田丸加奈恵
今回の「座談会」に向けて、子プロのメンバーと事前準備をして、改めて子プロに参加している目的、意識を考え直すきっかけになりました。今回、わたしの中で「心理士を目指すわたし」と「ボランティアとしてのわたし」について考えていました。活動の中で、初めは暴言を吐き、否定し無視する子どもが、ちょっとしたきっかけで笑い甘えてくることさえあります。しかし、その時に「心理士としてのわたし」だから子ども達が関わってくれるのではないことに気が付きました。子ども達は、心理的な関わりよりも人間味のある、素朴なわたしと関わりたいのではと思いました。心理士としての関わりの前に、一個人のわたしとして関わるからこそ、子ども達はわたし達スタッフを受け入れてくれるのだと実感しました。そんな子ども達と接することで、わたし達スタッフも子ども達に支えられ、励まされています。そして、子ども達と良い関わりが出来るのはスタッフ同士が、お互いを支えあい、切磋琢磨しているからだと再認識することが出来ました。
●NPO年次大会をふりかえって~
立命館大学大学院 応用人間科学研究科 中間有紀(実習生)
今回の年次大会は、私にとって子プロでの活動を振り返る機会となりました。事前の打ち合わせ・また当日のやりとりの中で気づいたのが、「安心・つながり・表現」という3つのことを、私自身が子プロの中で感じてきたということでした。企画段階で意見を交わし合うことや、プログラムの中で活動すること、終わってからのふりかえりなど、じっくりのびのびと活動できる雰囲気を子プロの先輩方はつくってくださっていることを改めて感じました。また、当日印象的だったのが、パペット劇のふくろうさんの役柄が、そのまま子どもに接する時の姿勢につながっていると教えていただいたことでした。劇を通して、相手の言うことを落ち着いて受けとめ、安心してもらい、元気になっていく様子を見守るのは、とても嬉しい過程でした。なにより大会そのものがとても暖かい場で、発表していても他の方の発表を聞いていても、とても元気づけられる1日でした 。このたびは貴重な機会をいただき、本当にありがとうございました!
●年次大会座談会を終えて~ 正会員 森﨑和代
今年の第10回年次大会では、各プロジェクトの活動を発表することになり、子プロでは、一部座談会の形式を取りました。事前準備として行なった、約1ヶ月の活動を振り返るメールのやり取りは、自分自身と、お互いの理解を深める良い機会になったと思います。さらに、中間さん田丸さんが時にリーダーシップを取って率先して意見を出してくれたり、意見をまとめてくれたりして、子プロの良さをここでも感じました。子プロではこれまでも、プログラム作り、プログラム実施に当たっての課題分析など、みんなで力を合わせて丁寧にやってきました。
私自身も活動を通じて、丁寧に振り返り共有すること、意味づけして課題に取り組むこと、役割の大切さなど、多くのことを学んできました。年次大会当日は、会計を担当してくれているゆう子ちゃん(安田)や、初代メンバーの裕ちゃん(小田)のコメントから、「受け継がれてきたこと」を再確認し、私自身にとっても、子プロの活動の意義や組織運営も含め、様々な視点から考える良い機会になりました。ありがとうございました。
今回の年次大会の発表に向けて、子プロのOGである小川絵美さんが、子プロでの活動を振り返り、原稿を寄せてくださいました。いつも遠方から子プロを応援してくださり、メールでのプログラム企画ではバックスタッフに加わってくださっています。続いていくつながりに感謝して、以下に小川さんの原稿を紹介いたします。
●DV子どもプロジェクトでのボランティア活動~ 小川絵美
私が子プロにかかわるようになって5年になりました。子プロでは、個人療法を重視する大学院では決して学べない、生の「コミュニティ心理学」の現場がありました。もちろん1対1の面接スキルを磨くことは、臨床心理士としては大事なことの1つです。しかし、あくまでそれは基礎的な土台としてのものであり、学生相談室のように厳密な枠組みを保証できる環境にいる場合に実践できるのだと思います。
一方、人は社会的な動物といわれ、独りで生きて行くことはとても難しく、何かしら誰かとつながり、かかわりあいながら生活しています。子プロが提供しているプログラムは、「安心とつながりのコミュニティづくりネットワーク」というNPO法人が母体です。私はこの名前がとても大事なことを伝えていると思います。なぜなら、NPOが活動する上で最も大事にしなければならないことは組織のミッションといわれているからです。子プロが所属しているNPOの名前はミッションそのものです。子プロは、このミッションをとてもよく表した活動をしていると思いませんか。
「安心とつながりのコミュニティ」とは、本来人が当たり前のものとして、それが脅かされなければその存在に気づかないようなものかもしれません。しかし、生きていくためには一番に必要なものです。子プロは、安心を脅かされ、傷つき、つながりを絶たれた人たちに対して、再び安心を感じ、つながる喜びを生み出し、その人たちが自らの力でコミュニティを作り上げて行くことを支援しています。それは生きる力を取り戻すプロセスです。福祉的に言えば、人が誰しも持っている「生きる権利」を再獲得するための支援をしているのだと思います。
DV被害を受けている女性を支援するNPOやシェルターは増えつつありますが、特にその女性の子どもへの支援はなかなか手が届きにくいのが現状です。そこを担っているのが臨床心理学を学んでいる大学院生がスタッフとしてかかわっている子プロです。ボランティアといってもとても専門性の高い、対象を特化した取り組みだと思います。心理的虐待を受けた子どもにとって、ほっとすること、お腹から声を出して笑うこと、いやなことをいやだと意思表示することなどが(実はスタッフによって綿密にねらいなどが定められている)「遊び」を通して自然発生的に起こることが生きる力を回復させていきます。1人で遊ぶことで空想の世界が子どもを癒す場合もあるでしょう。しかし、大人も子どもも他者との相互作用によって「つながりあって」いくのです。
傷ついた子どもは他者とつながることに懐疑的になっているかもしれません。しかし、子どもの本来持っている回復する力はとてもしなやかです。子プロのファシリテーターはじめスタッフはそれを信じてかかわっています。そして、他者とつながることの心地よさを子どもが再び感じられるよう、自らも開きます。その姿は子どもにとってのモデルになります。プログラムをうまく進めることを優先する必要はありません。必要なのは参加している子どもとの生きたかかわりだと思います。将来的に子プロに参加した子どもが再び人を信じ、人とつながって生きていけるようになることを願います。
(ニュースレター42号/2013年2月)