香港で国際表現アートセラピー学会というのがあって、仲間たちと一緒に「平和と非暴力の織物を紡ぐ:北東アジアから拡げる平和構築と和解の試み」という発表をした。女性4人が、平和構築に関わるに到る個人史と社会史をつなぐ物語を書いて編集し、映像とともに、オムニバスの朗読劇のようにして発表するというもの。翌日は、仲間の一人が主催した「アートを使った平和構築と歴史的葛藤の変容」というワークショップに参加した。どちらもなかなか面白い試みで、中国、グアム、インド、レバノン、グァテマラなど様々なバックグランドを持つ参加者たちの物語を聴くことができた。小さな物語を多声的に並べると、さらにたくさんの小さな物語が集まってくる。
実は、7月に京阪三条で「未来のための思い出:ココロかさねるプロジェクト」というイベントをやった。本NPO理事である団士郎さんの「木陰の物語」のパネル展示をして、街頭インタビューで感想を求めたところ、ここでも、漫画として描き出された小さな物語から、それぞれの多様な物語が呼び起こされ、語られた。昨今ありがちな平板で「大きな物語」は、たくさんの小さな物語を抹消する力を持つが、小さな物語の掘り起しと共有は、たくさんの豊かな物語を生み、拡がりをもって響き合う。物語の多様性の幅が拡がり、交差し編みあわさっていくことにこそ平和構築があるのだと思う。
最近、パッチワークを始めた。老後の楽しみにとプリント柄の古着をたくさんためこんでいたが、ふと、楽しみを老後まで待たなくても・・・と思ったのだ。やってみると、すっかり眼が見えなくなっていて、針に糸が通らないし、パターンの隅をきっちり合わせて縫うことも難しい。あまり眼を使わずやり慣れた編み物を加えることにした。まだ詳細を詰められていないが、NPO内に平和のキルトの会を立ち上げようかと考えている。楽しくおしゃべりしながら、それぞれの物語や想いをキルトにしてみんなで紡いでいく作業は、圧倒的無力感への抵抗の力となるはずだ。
(ニュースレター49号/2015年11月)