アートセラピスト栗本美百合さんによる本研修は、身体感覚を呼び起こしながら場のあたたまりのなかで学ぶことのできた、貴重な機会となりました。
導入部分でティッシュ・アートを行いました。ティッシュペーパーは、柔らかく優しい手触りゆえの安心感がある素材です。薄い重なりを静かにはがし、1枚を自由に折りたたみ、太いペンをゆっくりとおいては色がじんわりとにじんでいくさまを眺めつつ待つ時間。思いのままに彩色したティッシュペーパーを、ドキドキしながら丁寧に開く時間。この一連の過程を通じて、心を鎮め、身体をほぐしゆるめながら、思いがけない自らの創造性との出会いを経験するということ。ティッシュ・アートはセラピーの最初に行うのが有用であるということに深くうなずきました。
引き続きなされた講義では、遊びがいかに重要であり、遊べるようになるには深い情動や身体感覚の分かち合いとそこで培われる関係性が大切であるということが、わかりやすく説明されました。対象関係論を基盤に、母子関係や子どもの遊びに関する臨床研究をした児童精神科医ウィニコットの理論が引かれていました。そのうえで、トランスパレントスターやローズウィンドウの創作体験を行いました。前者は折り紙用の色ペーパーを「折る」ことで、後者は半紙様の色ペーパーを「切る」ことで、創作を行うもの。順に、自由創作に慣れないことへの緊張の高さをほぐす、力を入れてから抜くという身体感覚により広がりを体験するという特長があり、心理療法に導入するに際し、対象者の個性や状況を見立てる必要性も述べられました。無理なく提供するうえでは自らが素材を体験しておくのが重要ということもまた、身をもって学んだことです。この創作を経て、人が外界とつながることについて「身体感覚・経験」「イメージ」「言語・概念」から解説され、それは、続けて紹介されたトランスパレントペーパーを用いた緊急支援のケース理解を理論的に深めるものでもありました。
創作体験、講義、多様な意見交換を交えながら、深まりゆく研修会。アートセラピーは、安心できる関係性のなかで体験しつつ学ぶことの有用性と重要性が実感された、実り豊かな時間でした。
【2016年6月~12月の活動】
2ヶ所のDVシェルターにて派遣プログラムを実施しました。この間、団体では6,8,10,12月の計4回実施し、子どもはのべ5名が参加しました。施設では7月に1回実施し、子どもは11名、おとなは7名が参加しました。9月22日(日)には、栗本美百合さんをお招きし、「あそぶことと創造性-ものづくりを通した心のケア」をスタッフ研修として行いました。
(ニュースレター52号/2017年1月)